カタリナ・クラエス

― 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

2020年上期で一番バズッたアニメといえばこれではないでしょうか?まあラノベ作品自体の評判もすこぶるよく,コミカライズも絵師さんにそのままお願いしたことも功を奏して,満を持してのアニメ化であったわけなのですが,やはり悪役令嬢ものというカテゴリからいまいち前評判の中では話題をかっさらうまでには至らなかったようです.でも実際クール開始と同時に快進撃は続き,その裏ではすでに2期の計画が進行中との事で,コロナで大変な中追い込みをするなど製作に携わったみなさんのご苦労が報われたのではないでしょうか?このアニメの売りはやはり山口さんの原作のすごさと,原作もコミカライズも担当したひだかさんのキャラクターへの愛なのではないかと思います.その中でもカタリナへの愛情は視聴者の多くをも巻き込むほどのものになり,果てには私がこのページを書くきっかけにもなってしまったのでした.

さて,この原作は大きくカテゴライズすると転生ものということになります.転生ものの多くは現世に嫌気がさしたり,ブラック企業で働いていて過失死したり,比較的現世からは逃げたい人が主人公になっているケースが多いように思います.でも本作は”そうでないほう”でして,転生前の女子高生はごくごく普通の生活をそれなりの幸福感の中,あっちゃんと友情をはぐくみながらゲームを楽しんでいる日常で,不慮の事故で亡くなってしまい,転生するという筋書きとなっています.まあ転生もので不幸な境遇から転生した人は大体魔術レベルがめちゃくちゃ高かったり,レベル上げがめちゃくちゃ早かったり,チートな環境な中幸せを謳歌するというのが一般的ですが,本作はその逆で幸せの中転生し,不幸な未来が決まっているような境遇の中主人公がひたすらあがく設定ということになります.なので本作はそのカタリナの未来を変えたい一心で苦労しながらそれを面白おかしく描いているところが視聴者の共感を生み,人気作となる素地ともなっているのでしょう.

<転生前>

数ある転生もの原作のアニメでありつつ,本作の特徴は転生前の女子高生の生活ぶりについてもある程度詳細に描写していたり,それがストーリーの重要ポイントで使われたりするところでもあると思います.ですのでカタリナを語るうえで,この転生前の女子高生についても触れないわけにはいかないわけです.

まず,その女子高生と対になって登場するあっちゃんとの出会いは中学の頃です.特にこれ以前,あっちゃんは少し孤独を感じていたような描写もあるものの,当の主人公のほうは特に孤独であっても孤独と感じずのほほーんと自由奔放に生きてきたようなキャラクター設定になっています.これは,カタリナが未来のシナリオを知りながら,それを変えていこうとするひたむきな努力をしている姿の対極でもあります.先述の不幸な転生前+バラ色の転生を描いている作品のように転生前後のコントラストを強調するために本作では,のほほーん+切迫感というコントラストを出しているわけです.

しかし,こののほほーんと生きていた転生前の性格も転生後に役に立っていたりします.転生後幼少のころから手掛けるようになった畑仕事や木登りがそれに当たります.そしてそれらの行動を元に,切迫感を時折感じながらも自らの性格の根源を失うことなく人生を変えていく姿に見ている側の私は滑稽さや共感を感じてやまないわけなのです.

<人に嫌われないようにするということ>

そんなカタリナはひたすら破滅フラグを折ることばっかり考えていて,人に好かれようとは思っていません.いろいろ策を練って,破滅フラグにつながるイベントが起きないように策略を練って,うまくいくときもあれば,全然逆効果になるようなこともあるわけです.その結果に一喜一憂している本人とは裏腹に,周りの目はどんどんカタリナにくぎ付けとなり,一部では人気者になり,他の人たちからは変わり者扱いされたりするわけです.そんな無意識がなせる業って,実は我々の実生活においてはよくあることだったりします.人に好かれようとしてやったことが全然効果を得られなかったり,逆に自分をさらけ出していいところも悪いところも出してしまったことがかえって好感度を上げたりするわけです.ただ,それは策略としてやっていることの場合はあまり効果がなく,意図せずやったことが効果を生んでいるケースが多いようです.そしてそれは人のためを考えてやったことと自分の思いを素直に表現しただけのケースに大別されます.

前者の例では,

(i)キースの心を開かせるためにドアを破ってまで伝えたひと言
(ii)アランのコンプレックスをなんとかして上げようと思って放った一言
(iii)マリアを学園内のいじめから救うときの一言

があり,後者は

(i)メアリの作った庭の美しさに感動し,助けてほしいといったこと
(ii)ソフィアに周りの評判を気にすることなくその容姿を美しいといったこと
(iii)ニコルにはそんなソフィアを妹に持って幸せだと再認識させたこと
(iv)アンの結婚に反対し,アンが自分にとって大切だと力説したこと
(v)マリアの手作りお菓子を夢中になって食べてしまうところ
(vi)マリアの実家に突然訪れ,母を安心させてしまったこと
(vii)ラファエルの煎れた紅茶を無意識に”優しい味”と表現したこと
(viii)アランに木の上からの景色を見せて視点を変える大切さを再認識させたこと

などでしょうか.こうやって対比すると,前者はカタリナ脳内会議の決議内容から派生した間接的な効果になっているといえますが,後者は全くカタリナの天然キャラのなせる業ということになります.そのような点から,カタリナ脳内会議はあまり戦略的には有効だはあるが,戦術的には役に立たない(ことが多い)ということになると思います. 要は人に好かれようと思ってやることよりも,むしろ人のためにやることが自分に良い影響として帰ってくるという,将に情けは人のためならずと地で行っているのがこのカタリナということになるでのしょう.

<生まれ持ったものについて>

そんな行動に対する考察はいわば内面に対するものと考えると,一方でその外面はどうでしょうか?まあラノベ原作であり,作者の好みによって如何様にもなってしまうものではありますが,本作においてカタリナはその内面が転生前後で大きく変ったにも関わらず,悪役顔はそのまんまです.要はこの作品から読み解けるのは,人間は外見ではなく人柄によって左右されることが多いということなのだと思います.ストーリーの中ではマリアを救うときに悪役顔の特権を頻繁に行使していたりはしますし,そのせいもあって洗脳された令嬢方に公開処刑につながるような疑いが掛けられてしまったりします.でも,それは多くの人がそう誤解することはあっても,一部のよく知る人たちがカタリナの人柄を理解してくれていたおかげで,窮地を救ってくれたりします.要は人を外見で判断しない事や,自らの外観を嘆いて何事もあきらめないということであったり,周りの全員にではなく一部の深い理解者がいるだけでも十分人生の中で財産となりうるといった教訓をカタリナのストーリーは教えてくれるのだと思います.

<悪役令嬢の歴史から考えること>

さて,ラノベやなろう系ネット小説の中で悪役令嬢のカテゴリは2010年ぐらいから徐々に人気となっていたようです.多くがその舞台を乙女ゲーとしているので,なかなか男性からはハードルが高いように思えたのですが,そんなこともなく乙女ゲーを知らない人でもサクサク読めるように書かれているものが多く,今や激戦状態ともいえるカテゴリになっています.で,その乙女ゲー自体は歴史はそんなに古くなく,悪役令嬢自体は主に少女漫画が派生元であると考えられます.

少女漫画ということになると,私の場合は小学生のころはなかよし,中学,高校はりぼん,別マ,別コミ,花とゆめなど結構読み漁りましたので,それなりに読んだ記憶はあるのですが,人気作以外は主人公以外のキャラまで覚えている作品はあまり無かったりします.その範囲において私の最も古い記憶の中で明確な悪役令嬢 ということで印象的なのは,キャンディ・キャンディのイライザです.それまで悪役というか敵役で少し嫌なキャラのはいましたが,結局それはヒロインのライバルとして結果的には和解したり,ヒロインのためになったり,結果的に憎まれ役のまんまでは終わらなかったキャラが多かったと思います.また,本当に憎まれ役で終わる場合はストーリーの前半だけちょろっと出てくるようなケースが多く,印象に残りにくかったというのがあります.

で,そのイライザですがコミックを読み返すと(この歳のおっさんがキャンディ・キャンディを今更全巻読み込んでいるのはかなり違和感ありますが),イライザはなんと1巻から最終の9巻まで間隔はあきつつも登場しつつ,兄のニールが一時は少し変化を見せるものの当のイライザは終始一貫してキャンディをいじめ続けます.まあ最後の方はキャンディに耐性がついてしまい,あまり存在感を出せなくはなってしまいましたが,最後に破滅したりしないものの彼女こそが私にとっての悪役令嬢の代表格といえます.

そこで頭にふと思いついたのが,このイライザがキャンディと出会うよりも前,あるいは幼少の時期にカタリナと同じように転生が理由で人格が入れ替わり,将来を少しでも明るいものにする努力をしていったりしたならば,キャンディ・キャンディはいったいどんな展開になってしまったんだろうということです.アンソニーがイライザにぞっこんであったならば,事故死することはなかったかも知れません.テリーもイライザにぞっこんであったならば何の紆余曲折もなくブロードウェイのトップスターになっていたかも.ステアも戦死してないかも知れませんし,キャンディをはじめみんなアルバートさんもアーチ―もアニーもパティやニール,エルロイ大おばさまさえもがイライザ大好きのエンディングとか.まあそんなんではキャンディ・キャンディは決して売れる作品にはならなかったかも知れませんが,どなたか同人ではめふらイライザ編を書いてくれたりしないもんですかね?残念ながら水木さんといがらしさんの訴訟があったりしたためオリジナルタッグのスピンオフなどは期待できないので,少しでもまた日の目を見てほしい作品ではあります.

そんな遠い記憶を再び呼び覚ましてくれた本作.あまりの人気に3話目ぐらいからこれは2期があるのでは?と感じておりましたが,最終話の最後にちゃんと2期の話が出て,期待が高まる今日この頃.それに今後別の悪役令嬢ものがどんどんアニメ化されていくような予感がしてなりません.本作ではカタリナのほのぼのとしたキャラクターがスパイスとなっていますが,今後もさらにスパイスの効いた悪役令嬢の登場を待ち望みつつ,そろそろ長文で嫌気がさしてきた皆様のお叱りに応えてこのページを締めくくりたいと思います.

KEN-Z's WEBのトップへ NEXT