三宅日向 ― 宇宙よりも遠い場所

やっぱり泣けるアニメが好きなんです.そんな中,触れ込みを見る限り単なる非日常系女子高生アニメかな?とか少し侮って視聴を始めたよりもい.見事に期待を裏切ってくれまして,私の泣けるアニメランキングの上位に一足飛びに上り詰めたのが印象的でした.この作品って,ニューヨーク・タイムズでThe Best TV Shows of 2018の海外番組部門の10作品のひとつとして紹介されたという,泣けるだけではなくとても評価の高い作品であったりします.その私が視聴し始める前の予想の中で女子高生かと思っていたらそうではなかったという点でキャラクター的にも予想を裏切ってくれたのがこの日向ちゃんです.

まあ主人公のキマリは最初っから最後までほんわかしていますが,報瀬(しらせ)ちゃんについては最初っからお母さんの件で重い十字架を背負って女子高生をしています.ちなみにしらせちゃんは明らかにお母さんの命名で,何度も南極へ行っている砕氷艦しらせが由来.その分南極への思い入れが強い設定になっています.結月ちゃんは子役からの特殊な生活の中で将来を悲観している中,きまりたちの情熱に引っ張られ南極チャレンジへの過程,現地での生活でどんどん変わっていく設定です.その3人とは少し女子高生ではないということで違う設定を唯一背負っているのがこの日向ちゃんなのであります.

ちなみに艦船フェチな私としては報瀬ちゃんの命名由来ともなったしらせという艦船について少し脱線気味に触れさせていただきたいところです.このしらせという文部科学省所有,海上自衛隊運用の砕氷艦は現実では現在2代目で現役ですが,ストーリーの中では引退したことになって,ペンギン饅頭号という名前で就航しています.作中ではこの船の砕氷艦であるが故の特殊な機能や,南極,それも昭和基地へたどり着く大変さなども紹介されていて,とても興味を惹かれるところでもあり,作品としての魅力となっています.

ただ,本作での船は作画の中ではしらせという艦名が船体には刻まれたままになっています.実際と違う設定になったのは,本来ならしらせの一代目が引退したことにして一代目を登場させようとしたけどしらせの一代目は船橋港で一般公開が中止されていることもあって取材ができなかったとかおとなの事情があったのかもしれませんね.ちなみに一代目しらせについては自衛隊の艦船のネーミングをそのまま使えないようでSHIRASEと名前を変えていて,ウェザーニュース社の設立した一般財団法人の所管になっていて,気象や環境に関する様々は観測を行う移動できる拠点としての活用を考えたSHIRASEプロジェクトというのが進行中なのだとか.ここらへん南極チャレンジという2代目の引退後の活用というのも信ぴょう性を感じる設定であったりしますね.

まあ,艦船ネタはここらへんにして本編に行きましょう.

<中学,高校の部活について>

いきなりですけど,日本の中学,高校の部活って私正直要らないって思っています.特に朝練があったり,土日もあったりする拘束時間のめちゃくちゃ長い部活は特に.学業がおろそかになるとかそんなんではなく,そのような部活のほとんどが上下関係が凄く厳しくって,一年生はまるでテクニカルな部分を伸ばせなかったりする,あるいは上級生を追い越してしまうと,まるで悪者のように見られてしまうことがあったりすること.私はそれが嫌いで中学は工作部,高校は写真部でした.確かに上級生を多少敬う必要はあると思いますが,スキルが抑制される下地になっているほどにはならない私の部活はとても充実したものでしたし,今もそのおかげでスキルが仕事やプライベートで活かせているのを実感します.

それとこの上下関係が厳しい部活の影響は日本の会社独特の年功序列や肩書優先のシステムにも結び付いていると思います.これは目上の人には自分の意見を言いにくい風潮を作り出しており,私が会社の中で永らく過ごしてきた中でも明らかに多くの局面でその悪い影響を感じざるを得なかったりします.損失隠しや品質偽装など大人になっても正しい判断ができずに,上の人が言うんだからというのがまかり通ってしまっているのはほかの国では理解できない日本の特色でもあります.もちろんこれらの問題は部活の上下関係だけが原因というわけではないでしょうけど,何が日本特有かな?と探してみたところ,これらの問題の関係者の生い立ちなどからこの異様な文化が影響している面が多くみられたのは事実です.なので私は上下関係の厳しい部活の弊害を痛いほど感じているのです.

要は今回の日向ちゃんについてはその部活のイザコザで,高校で居心地が悪くなってしまったということになります.でもそれは自分のせいではないのですちょっと先輩よりいいタイムが出ただけ.でも高校生の集団意識のなせる業か,その火種は徐々に大きくなり,ついには何もいなくならなくてもよかったのに高校を辞めてしまうまでになってしまいました.いわば日本固有の問題点をフォーカスしたのが日向ちゃんというキャラクターなのかもしれません.

<多様性ということ>

この日向ちゃんについては高校を中退してそのままではなくちゃんと自分の人生の再構成を着々と実行しているところが見て取れます.まずは大検を受けて2年生なのにちゃんと大学の受験資格を取得しています.言葉では自分をあざ笑った人たちを見返したいといいつつ,それは結局自分をより素晴らしいものに仕上げていく意思ということになります.そして大検や学業成績に満足することなく,それだけでは自分の青春が物足りないことを感じていたところに南極に行く話をしている二人に出会い,未来を切り開こうとした.

日向ちゃんのキャラクター設定って,いわば多様性があっても自分次第で十分に社会の中でもやっていけるようになるということアピールしたいという意思が感じられます.

<振り返りの要否>

ストーリー上,特にその日向ちゃんのバックボーンの部分を回収する必要があるかどうかというと,必ずしも必要ではなかったと思います.少なくとも1クールしかないわけですから通常のアニメであれば,原作に描かれていたとしてもスキップされてしまう可能性があったでしょう.しかしこのよりもいにおいてはここもちゃんと回収してくれたのです.ここらへんはこの作品の評価が高い理由の一つでもあるかと思います.

本人は望んでいなかったことではありますが,南極に行ってからその同級生だった子たちとのコンタクトの機会を得て,通常のアニメだったらここで和解してめでたしめでたしといった手はずになるでしょう.でも日向の場合はそんなことにはならない,というかしない.そうなってしまいそうになっても他の3人がそれを許さない.報瀬ちゃんとキマリちゃんがその気持ちをしっかり代弁してスッキリという,若かりし思い出みたいにして水に流すなんてないんだよと言葉にしてくれた.このストーリーの中には,いじめやシカトやそこから派生する学校における問題について,時間さえ経てば許されるとか,何でもきれいごとだけでは終わらないんだよという教訓を表しているのだと思います.そんな結構重いテーマでありながら,ストーリーの中にこのような強い主張がごくごく自然に織り込んである点はこの作品の優れたポイントだと感じます.

その日向ちゃん.そんな過去は日頃みじんも感じさせることがないほどの朗らかさで,まさに宇宙よりも遠い場所に赴くにふさわしい人物像なのです.井口さんの声もぴったりとはまっていて,4人の中では一番注目浴びていない感じがしますが,それでも私は一番の推しキャラなのであります.

ちなみにこの作品なんといってもエンディングのここから,ここからという曲が素晴らしく,何度も何度も聞いてしまいます.まあ声優陣が4人ともすごいメンツなのでいい曲になって当然な感じもありますが,この詩の中で,汚れたまんまるのビー玉握りしめてというところがめっちゃ響きます.そういえば自分にとっていっぱい汚れたビー玉に類するものがありました.でもそれを捨てたくっても所詮自分の経験でしかないわけです.なので握りしめて進んでいくしかない.そんな人生の上の多くの教訓を与えてくれるよりもいであり,日向ちゃんというキャラクターでもあるわけなのです.

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