立花瀧 ― 君の名は。

やっぱりかという感じでやっぱり君の名は。から一人選ばざるを得ないでしょうということで,今回,瀧くんです.三葉か瀧くんかで悩むところではありますが,やっぱりストーリーの中で瀧くんの存在なくしてはあのエンディングはあり得なかったというのをやっぱり感じてしまいますので.ここでは瀧くんのことを取り上げますが,この作品特有の瀧in三葉のときのことも含めて語っていきます.

<瀧くんのスペック>

瀧くんは都心に暮らす一介の男子高校生です.一方の三葉は町長の娘であり,地元を統べるほどの威力を持つ神社の長女.明らかに三葉に比べれば劣るスペックを持つ瀧くん.それが最終的にはあれほどの偉業を成し遂げることになります.小説などを読んだ方ならわかると思いますが,中学ではバスケットのちょっとしたスター選手であったわけで,それが身長が思ったより伸びなかったからか高校ではバスケットを断念したという設定があったりします.瀧くんはこれで少し挫折を味わって,しかも中学時代には両親の離婚により決して恵まれた環境ではない中,葛藤もあったと思います.要は少なくとも自分の境遇に満足していたわけではない状況であり,ある意味このまま大人になっていったのでは大した大人になれなかったというのが瀧くんに求められたスペックなんでしょう.でも一応都会に住んでいるイケメンということで,本人がそれを全く認識していなかったというのも重要なファクターであったと思います.

<瀧in三葉>

で,いきなり入れ替わったところを考察していきます.ここでは三葉in瀧は考えないで,瀧in三葉に注目します.実は瀧in三葉の入れ替わりのセリフのちゃんとついている描写のうち彗星以前の部分は映画の中では2回目の入れ替わりの朝と,美術の時間のときがちょっとと,ご神体へ行った日のみでしかありません.これは意外に少ない印象です.逆に三葉in瀧は都会を満喫して,果てには瀧くん本体を差し置いて奥寺センパイとのデートを取り付けてしまうほどに人間力を発揮してしまうまでが描かれています.はっきり言って三葉in瀧のアウトプットに比べると瀧in三葉のアウトプットはずいぶんと色あせているわけなんです.

で,これはある意味新海さんの絶妙な味付けによるものではないかと思うわけです.いわば序章でしかない少し腐り気味になっていた瀧くんが,徐々に大きな仕事を成し遂げるまでどうやれば救えるのかを一心不乱に考え,実際達成できる可能性が極めて低いにもかかわらず,ひたむきにやり遂げた(実際は最後の仕上げは三葉にやってもらわざるを得ませんでしたが)ということを表現するためにあえて入れ替わりの時には三葉の持つバックグラウンドを十分に理解する部分のみに控えたということなのかと思います.

<瀧くんの変化と伝えたかった事>

瀧in三葉のときに瀧くんが得たものは糸守を好きな気持ち,三葉をはぐくんだすべてのもの(つまりは人)を守りたい一心であり,そのために入れ替わりが途絶えた喪失感の中で自分を変えていったということになります.ここでいうすべてのものがすべての人になっているのは新海監督のこの作品に込めた東日本大震災への想いが強く表れていると思います.実際津波によって多くの地域で愛すべき景色,生活環境,インフラなどが破壊されました.しかし人さえいればそこにまた新たな美しい風景を気づくことが出来るという思い入れが強くあらわされていると感じます.

瀧くんについてはその変化が最も著しいのが糸守高校の校庭から翌朝にかけてのほぼ半日ということになります.そして雨の中ご神体を見たときにそれが確信に変わります.そこからの勢いが凄くって素敵.でも結局自分だけではどうしようもなく,結局ご神体での再会(というか初対面)でバトンタッチ.そして三葉本人がその大仕事をやり遂げるわけです.要は瀧くんの気持ちの変化がなければあの感動的な物語はなかったということ.

<その”後”の瀧くん>

ただ,その後は記憶を失ってしまい,何かやり遂げた後の抜け殻感が瀧くんを襲います.三葉より短いですが,6年もの間そんな気持ちを味わっていたわけです.でも結局二人の強い絆が再び巡り合うきっかけを作り,ストーリーとしては完結します.まあここでストーリーは終わっていますが,私としてはその後の糸守町を含めた二人の未来を想像したくなってしまうわけです.その後の瀧くんがどのような生涯を送るのか,その中で瀧くんのバイタリティや建築を目指したスキルや情熱が糸守の復興に役立ったり人を元気づけたりすることにつながると過信してやまなかったりするわけです.

結局のところ瀧くんのスペックには何にも特別なところがないのに三葉のなすべき仕事に偉大な影響を与え,その後も糸守やその関係する人達に大きな貢献をするところが素敵なんだと思います.そしてそれは二葉さんが特別な力を使ってもしかしたら没後に全世界を回って見極めて見つけたのだと思うわけです.そんな瀧くんが三葉とどのような未来を作り出すのか,その延長としてまた1200年後にはどのようなストーリーが生まれるのか,そんな未来永劫続くようなストーリーまで期待できてしまうのが君の名は。というこの作品の醍醐味であり,瀧くんのキャラクターとしての魅力なのだと思うのです.

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