界塚 伊奈帆 ― アルドノア・ゼロ

今までも何度かご紹介したように元来私はロボットアニメは苦手なんですが,このアルドノア・ゼロについては一回目の放映から欠かさず見ていて,かなりはまった作品であります.まあ製作陣がまず原作:虚淵玄さん,監督:あおきえいさん,キャラクターデザイン原案:志村貴子さんと,触手が伸びざるを得なかったというのもありますが.原作のストーリーやキャラクター設定などは,この物語の中ではお互いの正義の元に戦っている姿が,両軍の複数のキーマンの良識を描きながら成立している点が特徴的でしょうか.例えるならばガンダムのような感じ.シャア以外は少し悪どい設定もありながら,お互いが正義のため戦っているという点がロボットアニメであっても私が引き込まれた要因の一つといえるでしょう.

この作品の中では一番人気はやはりアセイラム姫なんですが,正直その高貴な設定ありきでキャラを好きというのもどうかと思いますし,やっぱりこの物語を成立させるにあたって伊奈帆くんの持てる人間的魅力が最重要と感じるのであります.

<普通の高校生が変わるきっかけ>

まあロボットアニメあるあるですが,特段何の変哲もない高校生がいきなりロボットを操縦できるようになって大活躍というところは変わりません.まあ背景設定が戦時下なりに高校でも実習があったような触れ込みはありましたが,まあ正直高校生が戦車をいきなり手足のように操縦できるとしたら,ガルパンのような伝統のある競技でもなければありえないと思うんですが,まあそこんところは許容しておきましょう.ここで引っかかっていてはせっかくのアニメが面白くなくなってしまいますので.

で,そんな不自然さを払しょくさせるための出来事というのがやはり友人起助くんの死ということになりましょうか.やっぱり原作がこの人だと1話目からこんな感じでかましてくるんだな〜と思います.でもそれが伊奈帆が将に戦士として起動するきっかけになったと自然に思えてくるわけです.うまい演出と言わざるを得ないでしょう.

<アセイラム姫との関係>

常に冷静さを失わない伊奈帆くんですが,アセイラム姫とのやり取りの時は少し意地悪になったりします.まるで男の子が好きな女の子をいじめるような感じ.特にレイリー散乱の件ではその部分が見て取れます.このシーン私はなかなか好きなシーンなのですが,脚本と志村さんの作ったキャラの性格,表情が最も効果的に働いていて,何度も何度も見返してしまいます.

まあ日本のアニメはじめいろいろな作品でも基本的なネタのような話ではありますが,いざ火星から来た人と話をするとして,こんな平凡なものでもアセイラム姫をぷくぅと怒らせるまで追い込んでしまうことで,伊奈帆くんのアセイラムに対する好意を表しているんだと思います.そして,おそらくこの瞬間アセイラム姫を刺激するようなことを言ってしまった理由は,まさにその嘘を教えてしまった地球人すなわちスレインに対する軽い嫉妬のような気持があったのかもしれません.

<スレインとの関係>

スレインはもし運命が違っていれば地球で同じ高校生同士として出会っていたかもしれません.それに生い立ちが異なるだけで,元々のスペックと性格も似たものだったかもしれません.伊奈帆くん,スレイン共に出会った瞬間からシンパシーのようなものを感じつつ,戦い,傷つけあって行ったわけです.そして当然その二人が戦う意味はもちろんアセイラム姫なのであります.

第一クールでは最後の方に近づくにつれ,伊奈帆くん有利で進みます.しかしどんどん不利になっていくスレインくんはその周囲の裏切りによりどん底に陥れられます.しかもその先にはアセイラム姫の命が狙われているという許すことのできない謀略が張り巡らされていたのです.その結果自らは負傷し長期に重篤な状況をさまようことになり,記憶が戻ったときには再びスレインと伊奈帆くんが戦い続けているさまを目の前にします.結局アセイラム姫は二人のどちらを選ぶこともなく和平と火星の統治者としての未来を選ぶわけです.最後,伊奈帆くんがスレインを救った理由を告げ,スレインは長く知ることのなかった加護を伝え,エンディングとなります.

ここで再びレイリー散乱が出てきます.ここでアセイラム王女は伊奈帆くんのエピソードを話します.もし伊奈帆くんとの出会いがなければ,ここで彼女は自らの伴侶に嘘を教えてしまうことであったでしょう.しかし彼女は伊奈帆くんとの出会いの意味をここで改めて回想することで,感謝をより深くするわけです.しかし,その嘘を教えてしまったスレインにはある意味真実を知らずに火星に来てしまった運命を憐れむような気持を持っていたに違いありません.そのような恵まれていないスレインに対し,伊奈帆くんはアセイラム王女と同じ気持ちを抱いていたのでしょう.

<好きなシーン>

私の伊奈帆くんに惚れたのは10話のアセイラムを救いライエと対峙するところです.ライエがアセイラム姫を撃つことはできないと判断し,残り弾数を考慮し銃の機能を理解した上で,絶妙のタイミングで制圧したということになりますが,そのあとの言葉についても両者の心を穢さないだけの配慮が出来てしまっているところが憎い.まあ実際ならば高校生がこんなことできないのはわかっていますが,これだけかっちょ良かったらアセイラム姫じゃなくっても惚れてまうやろ〜.

そんな感じでキャラクターの魅力が満載の当作.戦争というものは狂気を生むものであるという理をしっかり表現できているところ.その中で伊奈帆くんがが人間の尊厳をしっかりと守りつつ,それでも運命を切り開くべく理知的に戦うところが素晴らしいのだと思うわけです.

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