キョンくん ― 涼宮ハルヒシリーズ

今回は大物が登場です.キョンくん.ちなみに本名不詳です.まあここらへんの微妙なポイントさえもあの作品を大きく世に名をとどろかせる一因にもなっているんでしょうけど.といいつつ,実は私の場合キョンくんもハルヒも初めて視聴したときには全然好きなキャラクターではありませんでした.

というのもキョンくんって超現実主義で,何の面白みもない男子高校生で,文句は多いし,モノローグが多いし,長門の扱いがぞんざいだったしで,どう考えても高校時代の自分を見るようで,どうにもこうにも好きになれキャラクターであったわけなのです.現にハルヒシリーズの序盤を何度も何度も見ていますが,ここでは一部にみくるさんの萌え要素が出てきて少し色づく感じであるものの,それ以外の目を引く脚色的な演出はなんらありません.ひたすらキョンくんのモノローグとも愚痴ともいえないしゃべくりが全体を構成しています.

<代弁者としての存在>

で,その長々しい中にときどきあまりセンスのないボケ,一方ではハイセンスな突っ込みを入れていたり,これってハルヒがいたとしてもいなかったとしても大多数の男子高校生が当時言いたかったこと,あるいは大人になってからそういった考え方が当時できていればよかったのにと思う事柄だったりするのでは?と思ってしまいます.ある意味すでに大人になって長く経過し,今になって高校時代を回顧しているおっさんたちの心に幅広く訴えかける何かを持っているといってよいでしょう.

そして,そんなキョンくんがストーリーの中で徐々に成長していくのです.ハルヒとその周辺のすべての事柄を運命とさえ思って,果てにはそれを楽しんでやろうと思いを固めた後,さらに長門に気遣いを見せる細やかさ.その中にもぐっとくるセリフ回しがふんだんにちりばめられている.ついには私もカッコいいよキョンくん.ふと世界の運命は君が握っているんだよ!とか思っちゃう.

<加えて谷川さんの分身としての存在>

まあ正直キョンくんって谷川さんの分身のようなもので,谷川さんの文才がそのまんまキョンくんの人格を形成しているんだなと思うのです.で,谷川さんが実際昔の北高での生活の中で感じたことや大震災の後に故郷の風景を思う気持ちとかいろんなものが合わさってあの作品が出来上がっているのだと思います.その効果は抜群でファンの平均年齢の高いこと高いこと.それまでは大人アニメの存在価値って模索状態だったのに,この作品で一気に確立された感じなのはまさにこのキョンくんの存在によるものなのではと思ってしまうのです.

<加えて杉田智和さんの味付け>

まあ,声優さんが好きだからキャラも好きという単純なのは私の場合ないわけなのですが,やっぱりキョンくんは杉田さんでないとダメというレベルまでハマりにハマっています.というのも原作の小説内のセリフを少しずつ杉田さんが変えていたり,独特のイントネーションや抑揚とつけてセリフに色付けをしてくれてまして,キョンくんのキャラクターとしての魅力をマシマシしてくれていると感じるからです.まあ声優さんとしての実力はすさまじいものがあるのですが,それを考慮しなくてもこれほどにキャラクターに自分の色を入れながらも原作のカラーを殺さず,相乗効果として表現しきってくれるその素晴らしいお仕事に感謝なのです.

<消失における過去の自分の総括>

やはりキョンくんのことを好きになった瞬間というのは消失の中でどんどん変わっていく姿を見せてくれたところでしょう.ハルヒの存在をその喪失の中で理解し,そしてどのように取り戻すかを真剣に考えるようになっていく.何も知らない消失長門の不安な表情と比例して,どんどん本当の自分を掘り起こしていきます.光陽園学園の校門前で再会した際には,まるで初恋の相手に邂逅したかのような気持ちをモノローグで吐露してくれましたし,その消失ハルヒにどうしたら真実を遣えることが出来るかを瞬時に手繰り寄せ,ついには手掛かりを手中にします.

そして北高校門前で生まれ変わったばかりの消失長門に対峙した中でそれまでの自分を総括します.それはまるでハルヒの代わりに自分が世界の創造者となるかのような大きな変化であったりするわけですが,その精神的な成長が劇的であればあるほど生まれ変わったあともあたかも何もなかったかのようにひょうひょうとモノローグを語っているところがたまらなく恰好いいのです.

そんな日常から非日常志向への転向を果たすなんてことが自分の高校時代にできたなら,どれだけ楽しいものであっただろうか?まあ私の場合,実際そんな大きな転向が出来ようはずもないですし,その転向先にもそんなに面白いことはなかったかも知れません.でもキョンくんも見ていると,そんな未来もあったかも知れないなどと感じつつも,自分の高校時代を思い起こしながら,面白おかしくキョンくんの成長を見届けたいような気持になるところが,キョンくんから目が離せない理由なのかもしません.

ちなみに,そう考える理由というのが消失のシーンの中にあったりします.あの公園でのみくるさん大人バージョンと再会した後のみくるさんの言葉.

ねえ,キョンくん.
きっといつかあなたもこの高校生活を懐かしく思う日が来ます.
終わってしまえば何もかもあっという間だった.夢のように過ぎてしまった.
そんなふうに思うときが.

郷愁にも似た感情がこの瞬間にあふれ出てきます.そしてその憧憬の真っただ中で運命にもてあそばれながら必死に自分のあるべきものを取り戻そうとしている姿.まるで自分のことのようにキョンくんの境遇を感じさせるようなマジックではあるのですが,それの余韻としてキョンくんを通して自分の高校時代を思い起こさせる作用があるのだと思います.まあ私の場合通常のファンの皆さんとは違い,自らが北高出身であるために通常より強い作用を受けてしまったって感じなんでしょうか?

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