リスタルテ ― 慎重勇者〜この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる〜

異世界召喚物や転生物のジャンルは大体その世界のルールやチートスキルを与える役割として女神やそれに準ずる存在が出てきます.その多くは少しヤサグレテいたり,ちょっと残念な設定が盛り込まれていて,必ずしもしっかりと異世界での主人公をナビゲートしてはくれなかったりします.その代表格といえば,Re:ゼロのアクアということになりましょうか.

この作品においてはその役割を果たすのがこのリスタルテになりますが,なんといっても彼女の売りはその突っ込み力.そこんところを重視するあまり,女神たる存在価値や,前世の悲劇的な運命などみじんも感じさせないレベルに昇華させています.私は原作を読んでいませんので,文章としてのそれは理解できておりませんが,アニメとしてその作画に携わっている様々なクリエイターの皆さんの努力や工夫と,何よりも豊崎さんの声がそのダントツの存在感を実現させていると思うのです.

<突っ込み力>

原作の力なのか,脚本の力なのかわかりませんが,このリスタルテは聖哉のみならず,すべてのキャラクターや現象についての突っ込み力がすごいです.ともすれば聖哉に対してはもうキャラが分かり切っている中で予定調和になってしまう危険もあるところをしっかりと毎回毎回裏の裏を読んで様々なバリエーションで誰も拾ってくれなくても突っ込みまくりますので,恐らく1話当たり最低でも20回は突っ込んでいるんでしょう.見ている側はそれを都度都度心待ちにしながら,次はどんな突っ込みで来るのかを楽しみにしながら視聴できるわけなのです.

ちょっとアニメの中でそんなやりとりがあったかどうか定かではないのですが,転生前にはカミソリ・ツッコミ王女と言われていたという設定のようで,よほどこの作品はこのリスタルテの突っ込み力をストーリー上重視しているものと思われます.まあ,正直原作や脚本でキャラクターの突っ込みが下手過ぎて興ざめするケースもありますが,このリスタルテについてはホント外れのない突っ込みを都度入れこんできますし,それがストーリーの進行やキャラクターの味付けなどを明確にしていくことで,作品の出来あがりに花を添えているような感じなのです.

<表情>

で,その突っ込み力に加えて特徴的なのはその表情のバラエティです.新米女神の設定であり,まだ女神になり切っていないという設定なのもありますが,もう原作者の方のお許しをちゃんととれているのか心配になってくるほどに,表情が崩れまくっています.それはもう時折作画ミスでは?とも思うほど.

上のは将にその作画ミスを疑ってしまうクラスですが,こんなのが様々なバリエーションで幾度も出てくるのです.必ずしも突っ込みシーンではないのですが,これを見てこっちが突っ込んでしまいたくなる衝動にかられます.そして作中にフィギュアが出てきますが,当時はもしフィギュアが発売されたとしてこの変顔を別パーツで付けたらどうなるんだろうとか,想像してしまいました.幸か不幸か現段階(2021年2月)でねんどろいど以外にはまじめ顔しかバージョンがないので,私の想定をはるかに上回るお値段にまで跳ね上がっていますね.まあ,ホントは美人さんなわけですので当然っちゃ当然か.

また,このキャラ崩壊しているような表情の多くは,たくさんのコンテ製作者の方が絡んでいるのか,それぞれタッチが異なったりします.私のチェックした限りでは5人ぐらいの方がかなり自由な発想で表情を作っていっているのではないかと思ってます.また,その動きに関しても非常に手の込んだ作画,色付けがされているものもあり,かなり時間を掛けて丹念に作りこまれているのがわかります.なのでリスタルテというのはそれほど多くの方々に愛されながら生み出されたキャラクターであり,様々な技巧,発想の宝庫でもあることから,作り手さんの思いを感じつつ見ていて飽きないキャラともいえるわけなのです.

<豊崎さんの声>

そして,多くのクリエイターさんたちの思いを上塗りしてくれるのがやはり豊崎さんの七色ボイス,いや百色,もとい,一万色ボイスなのであります.正直声優さんの声のバリエーションというのはもとよりかなり幅広いものであり,それを武器にして日々戦っているわけですから,声質を何通りも持っているのはそんなに珍しいことではありません.でも,その幅があまりにも豊崎さんの場合は広い.時々低めの声などはスロー再生のエフェクトを掛けているのではとも思います.でも前後のつなぎから決してそうではないですし,そのようなエフェクトを掛けると一語一語のリズムが崩れてしまったりしますが,それもない.恐らく声帯の動きがかなり活発なのと,肺活量をフルに活かして息の速さをコントロールするからあのようなバリエーションが生まれるのではないかと思います.

そして声だけではなく,その間の取り方や息継ぎの入れ方,緩急と強弱,アクセントなどがやはり秀逸.恐らく幼少のころから関西系のテレビを見てお笑いのセンスを磨いたというのもあるでしょう.しかしそれ以上に本作では相当脚本を読み込んで,自分なりにリハーサルしてスタジオ入りしたのではないでしょうか?それとも監督さんの指示がそこまで詳細かつ的確だったのでしょうか?もし後者であれば,採用されなかったバージョンなんかもあるでしょうから,それをボーナストラックとかで入れればよかったのにとか想像してしまいます.

そういえば豊崎さんといえば,けいおんの唯が有名ではありますが,当時はまだお仕事をはじめて3年ぐらいしかなかったにも関わらず,声のバリエーションや抑揚の付け方や,声のくぐもらせ方なんかが絶妙ですごいなと思っていました.その後の活動についてはスフィアの様々なステージやイベントに加え,深夜アニメだけではなく幅広い層に向けたアニメにも出ていらっしゃってすごいなと思うわけです.そんな方が深夜枠の1クールの作品でのリスタルテというキャラクターに全力で取り組んでくれたことに深く感謝いたしたいところなのです.

ともあれ,リスタルテのキャラ設定は前世における悲劇を感じさせないようにあえてそうしているように思います.前世のキャラクターを女神になるからと言って変えず,あえてそのままとすることで,聖哉に変わり様とのコントラストを生みたかったというのもあるでしょう.まあ原作を読んでいないので,ここらへんは想像の域をでませんが.それをもってしても,なかなかここまでアニメの中でキャラクターに関わるさまざまな方々の創意工夫や技巧が満載なのはまれではないかと思いますので,もう一度おさらいの意味で通しでリスタルテの変顔オンパレードを見てみたいなと思う次第なのであります.2期来ないかな〜.

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