西宮市民プールと樋之池公園

ハルヒのアニメには市民プールが登場する.ご存知の通りエンドレスエイトの比較的はじめのところで毎回登場するので,正味8回登場するわけであり,単純な登場回数でいえばトップクラスではなかろうか?まあ最近のアニメで言うところのお約束の水着シーンが8回も楽しめるのはハルヒならではということであるが,この市民プールは実在している西宮市民プールがそのモデルになっている.

私にとって西宮市民プールという名称は昔からなじみの深い響きを持っており,ここでも懐かしさを禁じえないのでやはりそこらへんについてもご紹介しておこう.話はずーっとさかのぼってしまうが,私が生まれてからの3年を過ごした教員住宅はいわゆる新婚から数年までの教員が入居する一般企業で言うところの社宅のようなものであり,その頃の教員住宅に住んでいた同い年の子供を持った夫婦は大体子供たちが幼稚園に入るまでにその教員住宅を出て行くのが慣例であったようだ.ちょうど当時私にも同じ歳の幼馴染がおり,その彼のうちが引っ越した先がそのプールから程近い樋之池町であった.小学校低学年の頃は我が家が引っ越した逆瀬川からその幼馴染のうちに毎年夏になると泊まりにいったりして細々ながら親交があったので,その丁度近くにあって便利でもあった市民プールに毎日のように通って遊んでいた.

当時の市民プールはというと規模的には子供の目で見てもこじんまりした感じであり,お世辞にもハルヒのような女子高生がはしゃいでいる光景に出くわすことを期待できないようなものであった.プールの施設としては浅い子供用プールにそんなに高度差のない控えめなスライダーがあって,その奥には場違いな50mで8コースはあるが正式な競泳用には使えない深さ1.3mぐらいのプールがあった.子供向けプールはイモ洗い状態であったにもかかわらず,50mプールのほうは随分と空いていたのだが我々は小学校低学年の頃はスライダーが楽しくって毎日のように半日ほど子供向けプールでふやけるほどに長居をしたものだ.多分2年生の頃だと思うが,デビュー間もない岩崎宏美の歌がしきりに流れていたような思い出がある.

一方,この市民プールに隣接する形で,樋乃池公園というのが併設されている.ここは光陽園駅前公園のモデルではないかと言われていたりするが,これはちょっと行き過ぎかもとは思う.その樋乃池公園についても小学生の頃の思い出がないわけでなかったりする.まあそんな特別な思い出と言うわけではないが,その幼馴染のうちに身を寄せているときにそんなプールのあとその幼馴染のうちで飼っていた犬の散歩や適当なお遊びで樋乃池公園で日がな一日過ごしたりしたのである.当時の樋乃池公園と言うのはちゃんと池があり,その周りに遊具などがあるかなり広めの敷地が確保されていて,市内でも有数の規模であったと思う.

小学生も高学年になると友達同士で自転車を連ねて多少遠出したりするようになる.もちろん夏休みなどはこの市民プールは格好の遊び場になるので普段の遊び友達とも訪れることになるのだが,私にはこの市民プールという存在自体がその幼馴染みと切っても切れない存在であったので子供心には何か罪悪感のような変な感覚を覚えたものだ.

実はハルヒアニメに登場するプールがこの市民プールであったことは私にとっても意外であった.だって実際高校生が連れもって繰り出すのは少なくとももっと華やかなプールであろうと考えるのが普通だからだ.それに西宮の中で限定したとしてもほかにもっとほかの施設があったろうにと思ったのだが,ところがどっこい私の子供の頃とは事情が全く変わってしまっていることに後になって気づくことになる.まず西宮で大きなプール施設があるところというと昔は甲子園球場のすぐ脇に阪神パークという阪神電鉄が運営する遊園地があり,そこのプールが本来ならば登場すべきであったのであるが,残念ながらこの施設は震災以降閉園となってしまっている.また,武庫川女子大のあたりに厚生年金大プールというのがあった.こちらも国民が血と汗して働いた給料から差っ引かれたような厚生年金を湯水のように投入して日本各所に出来上がった厚生年金の垂れ流し箱物施設の最たるものであったのであるが,反省の意を込めてかいつの間にかクローズしてしまっており,現在は西宮で唯一の屋外のプール施設となるとこの市民プールしか無くなってしまっているのである.なんともしがない世の中になったことよとも思うが,これ即ち時代が変わってしまったということなのか.

中学に進むとその幼馴染みのうちに泊まりに行ったりすることはなくなったのだが,北高の受験日に彼とは再会を果たすことになる.もちろん校区からして彼も北高を受験しているものとは把握していたのだが,なんとその彼が隣の席に座っていた.恐らく私はその日相当険しい顔をしていたらしく周りにも一切気を回すことはなかったので,気を遣ってか試験が終了してから彼は私に声をかけてくれたのだ.あまりの偶然に開いた口がなかなか閉じない私を尻目に適当に挨拶を交わして彼と別れた.なんせこちらは運が悪ければ北高に入学出来ないかも知れないわけだし,糠喜びしてもしょうがないのだ.まあ試験の内容はそんなにひどくはなかったが中学受験を経験していない私にとってはそれが初めての受験であったので,手応えなんぞ感じる術もなかったのである.

しかし晴れて北高に入学すると今度は奇しくも彼が同じクラスにいた.ちょっと運命めいたものを感じたりして,その彼に写真部に誘われたのでその当時既に自分のカメラを持っていたこともあって帰宅部よりは面白かろうということで入部した.写真部での活動や下校については今まで書いてきたとおりであるが,結局部活のある日は写真部の友人たちとの会話に勤しむため半分ほどは樋之池町方面に下りていった.

高校には通学路という決まったものはなく,樋之池方面は住宅地の中をくねくねと降りていくので,大概のものは最も近道である階段や狭い路地を通るルートを使っていた.するとカップルで下校したい場合はそれ以外の少し遠回りなルートを使えばほぼ人目を忍んで連れもって下校することが出来るようになるわけだ.そのためルートバリエーションが皆無な甲陽園方面ではほとんど見かけないカップルという存在がこの樋之池ルートにはちらほらと見かけられるのである.

そして彼らの最終ランデブーポイントはというと,この樋之池公園なのである.ということで樋之池公園には自然に日暮れ時になると北高のカップルがちらほらと集まりだすことになる.一方の我々はだべりながら坂を降りきったかと思えば,Sくんのうちの前でもだべり,だべりつかれた頃になってSくんのチャリンコに2ケツで乗っかって私の家まで送らせたりしていた.Sくんの家はちょうど西宮と芦屋の境界に近いところにあったものだから,その夕暮れの中樋之池公園の脇とかを走っていくことになる.

すると様々なカップルがそこらへんをほっつき歩いているのに出くわしたりするのである.中には日ごろ見かけないようなカミングアウト前のお忍びカップルや付き合い始めたばかり,あるいはその一歩手前のようなペアもいたりするため,意外にもこんな私のへんてこな行動のおかげで誰と誰が付き合っているといういっぱしの情報通になってしまった.

ここらへんは前述の女子の隠し撮り業務に多いに役に立ったりしたのであるが,傍目から見ると一体おまえの春はいつやってくるのかなどと心配する友人も現れだしてしまう.しかしそんなことは全く頓着することなく,そこら辺の情報集めに熱中していた私は特に樋之池公園の周りを通り過ぎるときは目を皿のようにして周囲に注意を払っていたわけである.こうやって書いていても情けなく感じてしまうほどに,なんとも寂しい青春であったことよと思う今日この頃なのである.

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