アニメへの体慣らし(その1:君に届け)

自己改革とは言ったものの,従来からのアニメとの疎遠さを考えるとそのゴールへの道程が長いのは致し方ない.千里の道も一歩からである.ということでまず自分が入り込みやすいアニメを見つけることにした.そう思い立ったのが時期的には2010年の後半になろうとしているところであり,ちょうどオンエアされているかまたはその時点で放映が予定されているものとなるとあんまりめぼしいものがなかった.少なくとも子供用のものから選ぶと間違いなく魔法だったり,ロボットだったり,一回地球が滅びた後の話だったりと私がとっつきにくいうさんくさい設定で話が進んでいくものになってしまう.うちの子供らももう高校生と中学生になるのに今だワンピースを欠かさず見ているし,このままでは将来の夢が海賊になることになってしまいそうで怖い.一方でここ10年ぐらい夜中にいわゆる大人向けのアニメを細々とやっているのをちらっと見たことがあった.いきなり子供アニメという苦手フィールドに飛び込んでやけどするのはもってのほかであるから,深夜帯の大人向けのなかから自分のとっつきやすいものを選ぶのが順当であろうということになった.

しばらくDVDレンタルなぞの投資なくしてお試しできるようなタイトルがないかと探していたところに来て,君に届けの再放送をやるというのがわかった.それも2ndシーズンをやる前座として2週分を連続して1日で放映するという.手っ取り早く数をこなすという命題に対し短期決戦ができる上にそのコンテンツは魔法,ロボット,タイムマシン,戦争一切なし.先行して封切られた実写映画のストーリー紹介を思い起こす限りそれは純粋な学園ものでなおかつ純愛ものであり,それを輩出したメディアが少女マンガであることを差し引いても私にとってアプローチしやすいものと言い切れるだろう.

まあ少女マンガというメディアについて補足するならば,私は中学・高校のころは少年漫画は逆にあんまりなじみははなく,妹の買っていた少女マンガを読んでいたり,果てには自分で買ってしまったりしていたので私にとってまったく障害にならないのであった.しかもその買っていたのがりぼんとかだったので,今になって思えば男子高校生が分厚い付録つきの小学生低学年向けの少女漫画雑誌を毎月購入するのはある意味エロ本を購入するより恥ずかしいことだったのかもしれない.確かに当時りぼん連載作品の話を友人にしても皆が皆怪訝そうな顔をして話題を変えてしまったので,かなり異端な男子高校生であったといえるのだろう.

結局その君に届けをレコーダーに毎週録画してみるわけであるが,これがまた家族の手前なかなか恥ずかしいものなのである.HDDに落として出来上がったばっかりの2階のPCで音を小さくしてみるのであるが,うちの中は極寒の季節でもなければドアを閉めない風習なので,どうしてもその視聴している瞬間をかみさんや子供らには目撃されてしまうわけである.子供らからすればいい歳こいた汚い親父が突如毎休日ベッドの上で日がな一日君に届けを見るようになってしまったということであり,その光景に一瞥をくれたら最後今まで見たことが無いような複雑な表情をしながら階下に降りていく.

で,そのような人格形成上の不毛な苦労をしつつも25話をなんとか見終えることができたのだが,もうこれが泣ける泣ける.このアニメを知っている人の間では常識ともなっているの6話のトイレのシーンというのが初回の泣きドコロなのに,私ときたら2話目ぐらいから涙腺が崩壊し始め,6話は前半から頬を伝う液体は途切れることを知らず,瞬きの度にめがねにはじかれ,一話ごとたった30分の中でさえも度々めがねを拭かなければいけないといった始末.6話以降はもう泣き癖がついてしまっていて,爽子が常識はずれに純なことを言っては泣き,ちずちゃんが泣くたびに泣き,あやねちゃんがシブイこといっては泣き,くるみちゃんが素直に変わっては泣き,風早くんが優しすぎて泣きというのが続き,25話を終えるころにはもう精神的にぐったり.

意図していなかったところに来て,その反動なのかストーリー,アニメーションの作りこみ,声優さんのスキルありとあらゆるテクノロジにどっぷり嵌ってしまった.果てには自分の高校時代はなんて不毛な時間をすごしていたんだろうなんて自責の念に苛まれたり,風早くんみたいにならなければ!と年甲斐もなく真剣に思い込むようになってしまったりして,家庭環境,職場環境ともに悪影響を与えるなど副作用まで顕れてしまった.

実際そう時期的に違わない時期に公開された実写映画のほうとは絶対的なトピックの量は違うものの,実写映画の内容をすべて見たわけではないし,テレビでやっているダイジェストを何度か視野の端っこで見ていただけであったにもかかわらず,25話見終わったところで実写の映画ではそんな感動することもなかったことだろうと自信を持って言えた.ストーリーは原作の完成度によるところが大きいが,それを如何に表現するかはアニメ製作陣の実力によるものだろう.ちなみにこの君に届けでも聖地が設定されており,原作者の椎名軽穂さんの故郷である羽幌町や出身高校の校舎などがシーナリーに使われているようである.実写映画のほうは足利あたりが撮影地に選ばれていたらしいが,神社の感じや各キャラの人柄などを考慮すると羽幌町のほうが雰囲気も合っているように思う.もっともここを聖地巡礼するにはかなり時間と費用を要することになると思うので,西宮のようなことにはならないと思うが.

ちなみに声優さんについてはくるみちゃんの声をやっているのがいきなり涼宮ハルヒと同じく平野綾さんであり,くるみちゃんそのものはツンデレ系ではないものの声優としての真髄をうかがい知ることが出来たのもひとつの収穫であった.実はそれ以前に平野さん自体テレビのバラエティなどに出てくることが多くなってきていた頃に,たまにハルヒの声まね(現実にはまねではなくそのもの)をやっているのを見たことがあったのだが,当時は特に意識していなかったのでいわばこれが声優さんの個性を切り分けてアニメを見た初めての経験になったのである.

もともとメディアの重要度でいうと実写映画や原作漫画・小説よりもアニメのほうを軽視していたのにそれとは真逆のこんなことになるなんて.大体一発目からこんなに嵌ってしまうなんてはっきりいってアニメの実力を嘗めてたんだと自覚した.こうなると日本のアニメ恐るべしということで俄然やる気が出てくる.初期投資ゼロ円ながらここまでの水揚げを得られて気をよくする私.このようにして私のハルヒのアニメ攻略への道のりが好調に滑り出したのである.

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