西宮北高校の中庭,正門周り

北館と本館,および北館とハルヒアニメでいうところの部室棟の間の中庭はそれぞれ在校中とはその趣が大幅に変化している.昔は本館と北館の間はグラウンド側に抜ける経路としての機能しか必要なかったので,通路になる部分は無粋なアスファルトで残りのその半分ぐらいの幅が植え込みになっていた.そこには適当に植木が植わっていたがちょうど南側にある本館に接する形で植え込みががあったこともあり,1日のほとんどで日陰になってしまっていたので,それらの植木の成育状態は決して芳しいものではなかった.今はその恵まれない植え込み部分がまさに新たに玄関となっていて,北向きではあるが高い採光窓のおかげもあり明るい靴箱スペースが実現しているのである.

また北館とアニメでいうところの部室棟の間の中庭のほうには昔は芝が植わっており,その中に小さな円形の池があった.その真ん中にはずいぶん貧弱な池と噴水があって,なんか父兄が来校するようなイベントがあるときのみ噴水が稼働していた.ここは現状の様を実写で確認する術がないのでアニメ映像から推測する限りその芝は撤去され,代わりにレンガのようなものが一定の文様で埋め込まれており,その所々に立ち木が植わっているようである.昔は芝が植わって居る部分が広々と真ん中に横たわっており,そこは立ち入り禁止であったので北館から食堂にいくら急いでいても芝エリアを横切ることなく遠回りを余儀なくされていた我々からすれば,こんな些細なことでさえもうらやましい限りなのである.

またこの中庭スペースのグラウンド側にはアニメではコンクリートの机と椅子がおいてあり,喫食スペースになっているようだ.これよりも狭いスペースしかなく,昔は赤いコカ・コーラのロゴ入りベンチが二つ三つあっただけだったと思うがこんなところにもうらやましさを感じさせるポイントがちりばめられているのも感慨に値する.

ちなみに食堂は憂鬱の最後のほうに閉鎖空間内でのハルヒの構内巡回で登場するが,あの配置や雰囲気を含めて私が知っている食堂とは全く違うものである.現在の食堂が実際あのようなレイアウト,窓,出入り口,机,椅子などになっているかどうか定かではないか,当時はそっけない机に椅子が8つばかりくっついていて,その椅子は机の脚からアームでつながっていてスプリングで上向きに押し上げられているようになっていたと思う.そうすることで席を立つと同時に自動で机の中に椅子が入っていくという寸法だ.まあ育ちの良い高校生ばかりではなかったので,椅子の出し入れひとつにとっても管理する側のそんな工夫が必要な時代であったということだろう.


校門まわりは今とそう変わらないように思う.ただ校門を出て左手すぐのアニメでは自販機がおいてあるところは昔はお菓子やパンを売っているお店であったはずで,少し雰囲気は変わってしまっているが今もあの店は昼間はちゃんとあいているようだ.もし当時であったなら,生徒数も多かったためか放課後そのお店には誰かしらたむろしていたので,他校の女子を連れてきて着替えをさせ,その上ポニーテールを結わえさせるなんてことは注目度が高すぎで概ね不可能であったことだろう.

校門を入ると右側には今となってはかなり有名になってしまった感の強い例の生活は生活は質実 素朴に 心は高く 豊かにの石碑がそそり立っている.この石碑は昔から周りの立ち木の成育が著しかったために日中であってもアピール度ゼロで,私なんぞこのアニメを見て初めて何が書いてあったのかを思い出したというような按配でなのである.

確かに当時朝はグラウンド脇の東側の門から登校し,下校時はすでにとっぷりと日が暮れてからのことが多かったし,石碑なんてどうせ年寄りクサイことしか書いていないだろうという先入観の影響もあるだろう.案の定アニメを見て何が書いてあったのかを知ったときの感想は,やっぱりねというものであった.

ちなみにミジンコ並みに普通の高校生であったはずの私も秘密の一つや二つある.もう時効だと思うので白状するが,この校門周りでは友人に頼まれて何度か女子の下校姿を隠し撮りした.玄関から出てきたところを望遠ズームで狙うのであるが,大体北館の校舎の脇が一段高くなっているので,そこの立ち木の陰とかに隠れて待ち伏せするのである.女子の場合は友人と一緒に帰宅することが多く,その女子が北館側に顔を向けやすい立ち位置で歩いてきてくれるといいのであるが,その逆の場合はその時点で断念となるのである.また,校舎と校舎の間なこともあり,また西側すぐに山が迫っている地形,方角的な制限もあり,出来るだけ夏場の晴れた日の5時までが勝負なのである.一度冬場に1600ぐらいまで増感して挑んだことがあったが,トリミングして引き伸ばすと粒子が粗すぎてお話にならなかったので,フィルムはISO100以下.200mmF4開放.晴れていても1/60〜250秒といった感じであろうか.

なおいつでも逃げられるように三脚は使わず,音も出ないようモードラははずして手持ち,手巻上げなので,チャンスの数秒にしっかり5枚は撮影できるように巻き上げのテストなんかをフィルムレスでやったりした.また暗い中の撮影が出来ないということになると部活をやっている女子は自然に撮影しにくくなるので,わざわざ自分の成績をなげうってテスト前,テスト期間中に時間を浪費して撮影したりした.

そのようなギャンブルをして何枚も撮影したフィルムの中から1枚を4ツ切に焼いてパネルに貼って,フィルムごと渡すと結構良いお金になるのである.といっても準備や待ち伏せ,現像,焼付け,パネルへの貼り付けなど手間を考えると,印画紙,フィルム,薬液,パネル代を差し引くと時給200円ぐらいにしかなっていないことがわかりあとで愕然としたもんだ.

そんな中失敗もあった.当時私はあまりの近視の進行状況にめがねが追いついておらず,矯正視力でも0.8ぐらいしかなかった.両眼でもそんなもんだからファインダーを覗いているときは少し光量が足らないだけでターゲットを見失うことが少なからずあった.そんなもんだからターゲットの女子の見間違いが2〜3回あり,結構精神的なダメージも受けた.当時聖子ちゃんカットが流行って何年か経ってはいたもののその派生的な髪型がまだ主流であったため,前髪は眉毛よりも下,左右は比較的頬を隠すような感じの子が多く,それが顔の露出が非常に少ない髪型であるのに加え,ただでさえ見分けの付きにくい髪形を仲の良い女子たちみんながやっていたりするのである.そんなのが並んで歩いてきても私の半ば召しいた眼では瞬時に判別が付くはずもないのだ.

それにファインダーで認識できないのはしょうがないとして,なかなか人の顔というのはネガの上でも確認しにくいものである.従ってミスに気づくのは暗室で現像槽の中にターゲットとは違う女子の姿が徐々に浮かび上がってきたときなのである.だいたいそのような時は現像槽の前で膝から崩れ落ちてしまい,一切の作業を中止することになる.ただ,暗室には前室もなく同時にほかの写真部員も入っているわけだから,それだけでほなさいならと暗室から出るわけにいかない.その後は暗室作業の割り当て1時間のうちの40分前後を全く何もせずに時間をつぶさなければならない.

そうなるのは悔しいので,ひとまずその暗室作業でその娘の写真は何枚か焼いてしまい,翌日以降誰かそのターゲット間違いをした女子を好きな男子が居ないかを人づてに聞いてみたりするわけだ.今になって良く考えると変な質問であるが,渋ちん根性のなせる業で勇気を振り絞って△組の○○さん好きな人誰かいない?っていう質問を何人もの男子にして歩くと,不思議なことに翌日には××××(私の苗字)が△組の○○さんのことが気になっているらしいという全く予期せぬ噂に姿を変えて蔓延していたりするのである.流石にこの現象には私も困ってしまい,このときは隠し撮りの事実を吐露するわけにもいかず,結構大変な思いをして火消しにまわったものである.

結局そういった商売は顧客側もだんだん贅沢になってきて,全紙に焼いてくれとか,カラーにして欲しいとか果てには私服姿を撮ってくれとかいってくるようになり,いくら私でも校外で隠し撮りするのは補導でもされて痛い目を見ることになりかねないということでお断りしたりした.そもそも自分が好きな女の子が写真部の男にひたすら尾行されている姿を見たら,あんまり気持ちの良い話ではないと思うし,そこまで好きなら勇気を振り絞って告白して付き合って私服を見たり思う存分自分で写真を撮ったり果てには...という思考回路になぜならんのだと疑問を持ったりしたのだが.

3年になると,ちょうど校門脇の2階が教室であったので,この隠し撮りは北館のわきからではなく教室前の廊下に陣取って堂々と行うようになってしまい,友人たちの一部が容易に知ることとなった.そうなると依頼そのものより茶化して誰の依頼だの誰を撮るのかなどギャラリーが増えて機密漏洩の危険度が増え,商売上がったり状態になってきた.結局3年の間は2人ぐらい撮ってその後はそんなことのためにわざわざ後輩たちも居る中で秘密裏に暗室作業するのもバカバカしくなり結局依頼を受けなくなった.

さてアホな高校時代の思い出話はここらへんで切り上げて校門まわりの校舎の話に戻ろう.この校門まわりでは校舎の建て替えに伴い大幅に趣が変わっているところがある.前述の非常階段である.昔の本館は校門側の端には屋内に階段があった.校門の近傍に常時使っていないまでも校舎の出入口があり,そこから容易に各階まで上がれてしまうので,今となってはセキュリティ上の大いなる欠陥と言わざるを得ない点であったし,校舎の端の人目につきにくいスポットは高校生活においては何かとトラブルの温床になりやすい.

かくいう私もこの人目に付かない階段で女の子に告白なんぞしゃれこんだ挙げ句玉砕の浮き目にあったりしたもんだ.今になって思えばあのような半閉鎖空間で二人っきりの空間ということで,意中の女子に情報操作された挙句サバイバルナイフで八つ裂きにされなかっただけでも幸せだったのかもしれない.

私の場合情報統合思念体が遣わせた元文芸部のヒューマノイドインターフェイスも知り合いにいなかったし加えてメガネ属性もなかったから,はかなくも16年の人生に幕引きしていたかもしれないなどと考えると今となっては無意味な安堵の結果口元にうっすら笑みが浮かんできたりする.まあこのケースについてはトラブルの温床というものではなく私の身から出た錆的な趣が強いが,思い出しては見たものの今となってはあんまり思い出したくない類のものであることには違いないのである.

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