西宮北高校の体育館

北高の体育館は珍しく青い壁である.一見トタンのような建材が張られているだけで,まさにオイルショックの影響をもろに受けて資材のコストダウンが図られているわけだが,この青い壁は1つだけメリットがある.下界(当時の北高生はよくこの言葉を使っていた.)から見通せる場所に立地しているところに来て,なおかつ遠目にもこの青がよく目立つおかげで学校の位置を人に説明するのにとても便利なのである.下界からまるで予告ホームランのごとく六甲の山際めがけて指差しながら,おれは毎日あっこに見える青いとこまで通って大変なんやといった具合である.といってもそんな機会は年に1回あるかないかでそう多くないのでメリット呼べるかどうかは限りなく曖昧なのであるが.

その遠目に外観だけ目立つ体育館についてはアニメでは北高ライブのシーンとか朝比奈さんの跳び箱やバトンシーンでしか出てこないが,内部は何の変哲もない体育館といった感じであんまり特徴がないように見える.しかしハルヒアニメのそれは私から見てかなり描写がしっかりしていると感じる.内部や玄関などは当時のままだし,後片付けのシーンの光の加減なんかはまさにそのまんま.詳細についても緞帳やその脇壁,スピーカー,ステージの下回りなど,シーンをぼーっと見ているだけで懐かしさがこみあげてくるアイテム満載なのである.

体育館なんてどこの学校も似たようなものという諸兄もいらっしゃるかと思うが,ステージの高さ,左右の階段の位置,緞帳の前後位置や巻き上げ時の高さ,ステージの奥行などは各校で違っているはずであり,その微妙な加減がさすがにロケハンをしっかりやっているだけあって緻密に描写されているわけである.確かに私は高校時点で既に立ったまま脳みそだけ寝る特殊スキルを体得していたので,集会などの校長の長話やなんかの際はそれを駆使して全く演台やステージに視線をくばせることは少なかったが,それでも断片的な記憶をくすぐって余りある描写であるといって過言ではないのである.

ちなみに当時の北高ライブの様子もまさにあの感じであった.だいたい出演者というといつも音楽活動をしている輩ばかりではなく,その北高ライブに合わせて結成したばっかりのバンドもあったりしたので,バンドが入れ替わってすぐはごくごく身内だけが盛り上がっていて,曲が進むにつれてその曲の出来次第で徐々に全体が盛り上がるといった感じ.それがいやで出演者の一部はあらかじめサクラを用意しておいたり準備に余念がなかったりしたのである.

ハルヒのケースのような急繕いのバンドのケースはそういった準備まで手が回らなかったであろうから,服装で度肝を抜かれた後しばらく観衆がリアクションに困りつつ,曲の途中で徐々に乗ってくるといった会場の空気描写がなかなか絶妙であり,実際の北高ライブを知っている私にも当時を思い起こさせるのである.

ちなみに体育の授業などはあまり記憶に残っていないのだが,体育館でも私は写真部の非公式活動に精を出していたのを思い出す.当時ビデオなんかも高価で買えなかったので,写真で自分のフォームを確認したいといったバレー部やバスケット部の部員から撮影を依頼されたり,北高に他校を招いて行う交流戦,定期戦の類の撮影を頼まれたりした.もちろん非公式であるから依頼主のみをひたすら撮影するとか,依頼が他校や北高の女子を撮影してくれといったものだったりした.

実はこの後者の場合,結構困ったことがあったので紹介しておこう.所詮体育館での撮影であり,競技中はフラッシュも焚けないので増感も1600以上になっていた,出来上がりも粒子が粗くてあまりよくなかったものが多かったと思う.従って後者の依頼の場合は出来るだけ競技中でなく試合前の姿をフラッシュをたいて狙うことにしたいのだが,依頼者の多くはそうはさせてくれなかった.

要はその女子の競技中の輝いている瞬間の写真が欲しいというのだ.で,バレーボールならばスパイクの瞬間をネットからギリギリ顔が覗くような瞬間だけを狙ってくれというわけだが,これがなかなか難しい.県大会に出るかでないかのレベルの高校女子であるから,2階から狙っている場合スパイクの上死点であっても顔がネットの上端にどうしても掛かってしまうのである.100歩譲ってネットの上端より下で顔が全部写るような瞬間を切り取れたとしても,人間というのはジャンプして上を向いている瞬間は結構歯を食いしばるらしく,その女子の普段のかわいらしさからは想像できない壮絶な顔に写ってしまうのである.加えてスパイクの下降の瞬間も状況はほぼ同じで,結構髪の毛が逆立っているわ,目が閉じ気味だったり,ずいぶんな間抜け顔だったりとことごとくダメ写真にしかならないのである.

これが依頼者本人であればどんな形相をしていてもそんなに文句は言わないのでほとんど問題はないのだが,自分がちょっとでもほれ込んでいる娘がそんな形相をしている写真なんてのは許せないはずである.また,そのような間抜け顔になっているのはネガやべた焼きからではなかなか想像できないのでこちらでも結局暗室作業で膝の力が一瞬にして抜けてしまう敗北感を体感することになる.結局そのような写真しか撮れなかったときは依頼者本人が本来見たくないはずの写真を見せるのも酷であろうということで,気を利かせて現像を失敗したことにしてお茶を濁すことになる.

その場合全く御代はもらえず,フィルム,印画紙,薬液代などすべて持ち出しとなるから私の財布も悲鳴をあげることになる.あのような依頼を受けてしまった自分を後になって後悔してももう遅いのである.そんなこんなで,この体育館は何度か日曜日を棒に振った見返りに様々な教訓を得た重要な場所なのである.

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