ZXR750初期型(H1)については限定解除のときに一緒になった人が乗る予定であったという以外接点はなかった.特に赤黒のカラーリングは街中でも見る事が希で,里帰りのときに阪神電車から見える阪神ライディングスクールの教習車がそれであったのを奇異な目で見ていたぐらいである.(明石の試験車がZXRであると聞いたのはその後であったが,兵庫県でこの時期に限定解除した人の苦労が伺える.)
実際GPz750R(G1)に乗っていた頃H1への興味は皆無であったといっても過言ではない.NINJAばかり追いかけていて,ZX-10以降のツアラー系にも興味がなかった.結果,持てる情報がほとんどなかったのである.それでも89年当時の読み物を見ると,
排気量748cc/水冷直列4気筒16VALVE-DOHCセンターカムチェーン/max77PS/max6.8kg-m/乾燥重量205kgとある.GPXが195kgであったが,レーサーベースマシンのこいつは10kgもそれより重いのだ.当時何にも知らずKawasakiは何を考えて今更200kg超のレプリカを出すのか不思議に思った.あとでそれはあくまでもレースユースを考えた重量増であって,フレームとホイールによるものがほとんどである事に気づくのだが...
ただし発売時期からいくとH1は400,250よりも数ヶ月早いのでKawasaki初のTT-F1レーサーレプリカということになる.ただし750はあくまでもTT-F1参戦用のベースマシンとしてそのまま使えたので,レプリカという言葉は適当ではないのであくまでもレーサーベースと呼ぶべきと思うが...ちなみにZXRシリーズ中フロントフォークが倒立でないのはこのH1とH2だけである.またH2以降はバックトルクリミッターなるものがついていて急激なエンブレをかけてもクラッチが滑って後輪がスリップするのを防ぐ機構や,リアのスイングアームにKIS-ARMなる軽量化されたものが使われていたし,重量はそれで5kg減っていた.
GPXについてはKAWASAKI初の750専用設計という変な騒がれ方をしてのでよく知っている.Z2はZ1の縮小版だし,FX2はZAPPERの拡大版,G1は900NINJAの縮小版なのである.しかも水冷エンジンでセンターカムチェーンにしたことで軽量,コンパクトに仕上がっているらしい.195kgという乾燥重量はセンセーショナルであった.しかし売れなかった...実は私としてはGPX750R発売当初はNINJAよりも好きではあったし,TT-F1にデビューしたときもかなり熱狂した.ZXRはそんなGPXのエンジンとほぼ同じものが乗っているもののレーサーベースなのだ.
陸運事務所から戻りがてら調子を見る.すこしハンドルのハの字がきついような気がする.手首を外側に曲げて乗っているようですこしブレーキが握りにくい.ハンドルを広げるとポジションがきつくなるのであろうが,ノーマルのまましばらく体を慣らす事に決めた.
ステップは高い.実際レーサーベースのバイクに乗ってこんな文句を言う人間もいないと思うが,足が余り,ブレーキを自然に踏んでしまう.チェンジペダルにも足先を入れにくい.シートの後ろに腰を据えて,タンクをぎゅっと両腿で締めてみた.結局このように乗ると一番しっくりくる.しかしこのポジションをしてもレーサーレプリカの割に楽であるといえる.某紙の92年式のインプレッションでは腹筋,背筋をしっかり鍛えないと長距離クルーズは無理とあったが,ポジションが楽に決まるということは92年式と89年式の違いによるものか,私の腹筋がまだ衰えていなかったのか知らないが...コーナーでもフロントを抱えるように後荷重で回るとすんなり決まる.ほほう...結局へっぴり腰で乗るなよという設定なのだ.自然に前傾がきつくなる.シールドの上の方を使って目つき悪く乗るわけで久しぶりに気合いが入る.ただし,この17インチのフロントはバンクさせると急激に切れ込む特性を持っている.その前がフロント16インチのG1であったにもかかわらず,その切れ込みの比ではないように感じ,面食らった.タイトコーナーは回転を合わせ急激にパワーをかけることなくクリアしないと姿勢を乱すことになる.そのうちコツをつかみ,次第に慣れてきた.
なんせ陸運事務所までは車で行ったので,後ろには妻がついてきている.半分納得がいかないままついてきている妻に無駄な心配をかけるのもいやなので,全開にするのは避ける事にする.それでも6000回転までの常用域加速はまあまあである.ギアを換え,自分なりにトルクカーブを頭の中で描いてみる.目立ったトルクの谷はない.おそらくGPXに始まったセンターカムチェーン750エンジンはツアラー系の使い方も出来ないでもないように味付けされているのだろう.3000-3500回転でも充分にトルクを感じる.その味付けゆえ,後になってZXRのエンジンがサイドカムチェーンに切り替わり,まったくの別設計に生まれ変わってしまったのかどうかは定かではないが...