10月にGPzは2回目の車検を迎え,交換部品もなく約8万円で車検に通った.その時点でパワー不足も感じてもおらず,そのまま添い遂げるつもりでかなり念の入った日頃メンテしていた.もちろん車検はヤナギでお願いした.試験場の29才のおにーちゃんはその後そのヤナギでZXR750の予約を無理矢理入れられ,すでに乗るバイクは決定していたとのことであった.(まさかこの時,後にこの初期型ZXRに乗ることになるとは思いもしなかったが)
そんなある日生協の掲示板でふと見かけた"GPz750Rの売ります"の掲示.はじめ2-3日は気になっていたのだが,その値段があまりにお買い得に感じた.しかし検切れ.しかもGPz400Fは車検を受けたばかりだしそんなもの買えるわけもなかった.しかし数日後何を思ったか生協で売り主を紹介してもらうことになる.
GPz750Rを売ってくれるという人は数年前(GPz購入以前)にz400GPを同じくこの掲示板の個人売買で売ってくれと申し込んだことがあった人で,その時はいろいろあってキャンセルとなったという因縁のある人だった.変な運命の巡り合わせに戸惑いながら,車体を見せてもらった.
見たところものは初期型のG1.色は青/銀,カウル割れあり汚い,シート破れあり,リアタイヤつるつる(中古タイヤをサービスでつけてくれるらしい.しかも140/70で当時は破格に太く見えた),ほかは概ね大丈夫.チェーンやスプロケもあと5000kmは行ける.転倒したことがあるとのことで,ジェネレーターカバーに傷.マフラーにも傷がある.フォークの曲がりと,フレームの曲がりを前後左右から確認する.フォークオイル漏れはない.試乗したいのは山々だが,エンジンがかからない.セルはカチッと小さい音を立ててその後無言となった.バッテリは交換だ...エンジンがどうしてもかからなければなかったことにしてもいい.とのことでいったん引き渡しを受ける.その時点さえも"何をやっているんだ俺は..."と自ら呆れ葛藤していた.
結局引渡しを受けたもののうんともスンとも言わないエンジンのために何度か押し掛けするも,ほぼ坊主のリアタイヤが空回りして一向に火が入らないでの,その前オーナーの住処であるT寮の前でグの音も上げないセルに困り果てているところに運良く隣接したS寮に住むO原氏登場.10月とはいえ240kgにもおよぶ機体を後ろから押してもらい押しがけに何度かトライ.汗だくになりあきらめかけたが,結局チョークを半分ほど引いた状態で押し掛けしたところエンジンに火が入った.この疲労困憊の中,火が入った感動はおそらく一生忘れない.心は決まった.GPz400Fに別れを告げる決心は出来た.栄養失調気味の上に過度の運動を強いられ普段でさえも顔色が思わしくないところにきてより一層蒼白な顔になってしまったO原氏に"今度なんかおごるから"とだけいってその場は白状にも"さいなら"した.
違反とはいえ検切れの状態で捕まらないよう,どきどきしながら"ヤナギ"へ.最高速60km/hという危険走行をしながら岩倉から堀川丸太町までを走った.前オーナーの転倒のせいかフロントが落ち着かない.ブレーキの度にごっつんごっつんベアリングをいためている感じ.ベアリング交換かな?高くつくな...なんて思いながら.
程度が悪いながらも"ヤナギマジック"G1はベアリング交換などもせず締め付け調整とグリスアップ,バッテリ交換,中古シートへの交換,リアタイヤ(中古)への交換,バッテリ交換と約2週間で息を吹き返した.それは私に学生の身でありながらのローン地獄と充分な満足と優越感を与えてくれた.
ローンの書類を書き,車体を受け取る.まず店の前で押してみて,重い...ステムベアリングの調整で押しているときもハンドルが軽くなるかと思ったがそれはなかった(当たり前).走らせて見る.フロントのごつごつは見事になくなりハードブレーキングでもフロントはがたがた動かない.2速までフル加速してみる,100km/hまでの加速は一気.重い車体を900からボアストロークダウンされただけのエンジンでよくここまで加速させるなと感慨に浸る.加速感でいうとそのころばか売れに売れていた2ストのTZRやNSRよりもあるのではというのが正直な感想.実際はそんな鬼加速したわけではないのに,ぐんぐん後ろから押されるような感じ.
コーナーについてもフロント16インチもあり旋回性は高い.アンチノーズダイブもGPzよりもマイルドな味付けでGPzの頃よりも根性入れずにうまくコーナーを抜けられるように感じる.しかし排気量の差で発生する加速の鋭さに,いままでブレーキかけずに突入していたコーナーなんてのもフルブレーキングで突入する羽目になった.バイクは排気量じゃない!とか一時期でも思っていた自分をよしよしと心の中で慰める.
ポジションはロングクルーズにはもってこい.GPzからの乗り換えのため車格の違いはほとんど感じない,カウルの風防効果もほぼ同じ.しかもパワーがある分低速も取り回しが楽で,フロントが切れ込むからかUターンが楽に決められる.エギゾーストも低音が胸に心地よい.回してもヒューンという耳触りでない程度の高音に変わり加速感を増長させる.青/銀の色も今までの赤黒から刷新できて何か生まれ変わった感じ.年式相応の傷はあるものの,ブルーメタリックはナイトクルーズに映えた.夜の駐車場で何度も見とれ取れてしまう.私とG1,相性という点では最高点だった.750が900に比べどうだとか考える余地はなかった.良いものは良い.
その時期ZX-10も販売が開始されており,ZXR750も予約開始とBIGレプリカ,軽量クルーザーが一番の売れ線になった時代においても,4年落ち,走行38000km,乾燥重量228kg,77psの750はそれでも私にとっては宝物だった.