4回生になるとゼミに参加することになる.特に私が選んだゼミは日中ほぼ缶詰になってしまうことで有名なゼミだった.しかし缶詰にならなくてもよい方法があった.免許取得である.私はその頃4輪の免許を持っていなかった.2月に配属になった時点で"免許"を口実にゼミを抜けるという手段は標準仕様だったのである.
6月になって例の友人Tが限定解除に挑戦しているという.ゼミの院生(M1)の指導の下,もう少しとのところまできていることだった.そのM1はGPz750R(G1)に乗っていて,一度花背までいっしょに走ったことがあった.パワーはあるが重量ではハンデの大きい750が上りの花背でどんなものか試したかったのもある.しかもベース900の車体は重さはそのまま900と同じ,エンジンブロックの厚さを考えると排気量の少ない分重いのでは?と感じてしまうような車体にもかかわらずそのG1は,友人Tと私のGPzを勾配のきついコーナーでまとめてぶち抜いてしまった.友人Tはキャブの不調で抜かれたのだと言い張ったが,そんなレベルではない.確かに2台の空冷4発400は40kg以上重い水冷4発750に花背の上りでぶち抜かれたのだ.
結局友人Tは2回目でその栄光を勝ち得た.そして当然"あいつにできるなら俺も"となるわけである.幸い友人TからそのM1の作った攻略法ノートを借りて写す事が出来た.コピーという手法も選択できたが結局自分の手で写しを作成することで,"受験勉強"的な緊張感を得ることができた.大学4年間の中であれほど真剣に机に向かったのはこの時だけである.
"免許"という大義名分の元,ゼミを休み,免許試験場横の練習場と実地コースの練習に通うこと合計5回,事前審査も問題なくパス.この時の審査試験車はタンクにコンクリを詰めたZ2(Z750F)であった.当時京都の審査では右左折や,S字など曲がるときはすべてハンドルで曲がるという鉄の掟があった.右左折は細心の注意を持って行うべきであり,バンクさせるとはもっての外.というのが理由らしいが,なぜS字まで?という疑問は残った.
さて試験である.一回目の試験車は運悪く練習車のFZX750とは違いGSX750E4であった.完走は果たしたがメリハリという点では最悪の出来.S時の入り口の15m程度の小道の直線で40km/h出すという暗黙の"課題"がFZXの場合7.0kgのmaxトルクをもって楽勝で決められるのに,E4ではそれができなかった.FZXに比べ重心位置があまりにも高く,小さなふらつきが自分でも分かったので見栄えは悪かったに違いない.CB750FCでは練習したことはあったのだがE4はなかった.ちなみに練習はしたもののCBは例の利かないブレーキにより急制動では絶対不利であり,どうしても本来の大型試験用の停止線の白い線まで行ってしまう.CBが当たったら諦めるしかないと決めていたのだが...
二回目はFZXに当たり完走も果たしたものの,もう少しという評価.一本橋はとりあえず"ハトポッポ"が1.5回は歌えたので,まったく駄目というわけではないと思った.次の予約を入れ,実コースを使っての練習にも追加で2回通った.
三回目は雨.雨量はかなりのものがあり,バイクではなく電車で試験場に向かった.コースを見ると,外周道路のかまぼこは川のようになっている.ただし雨のとき歩行者への水はねを考えて,水が溜まっているかまぼこ上を走らなくてもよいらしく,その結果合格確率がよいそうだ.けれども雨という逆境の中,試験中止が続出する.雨も強まって波状路は試験官から見えるか見えないかという感じである.合羽を着て試験開始.
この局面で一番気をつけなければいけないのは急制動である.後輪ロックはどうしても避けなければならない.ふだんはメーター読み42km/hまであげるのだが,幸いにも雨中で40km/h以上で点くライトが運転姿勢からでもよく見える.結局40km/hぎりぎりで進入.中型の試験で使うオレンジの線の手前で停止した.
待合所に戻り,階上の検定室の前で試験官のコメントを聞く.
雨中よく確認もできていますね.(よしよし←心の声).
メリハリもついていて良いです.(うんうん).
ただし,事故らないようにしてください(急に何いってんの?この人)
合格です.(やったーっ!!!!)
階下の待合室に戻ると不安そうに試験を待つ人たち.あまり刺激しては迷惑ということで,こそこそと後ろのほうにいたのだが,私の顔が無意識に笑っていたのかもしれない.一人のおにーちゃんがどうでした?と聞くので,"合格しました"と笑顔で答えるとそのおにーちゃんはため息一つ.話を聞いてると29才の電工さんで,私の行き付けでもある"ヤナギ"によく顔を出しているらしい.今回は10回目とのことでもうやめようかななんていう."外周のかまぼこの上は走らないほうがいいですよ"とかアドバイスしているうちにそのおにーさんの番になり,結局そのおにーさんも完走.何と合格してしまった.
結局免許の裏にはんこを押してもらうのに小一時間待たされてうきうきで帰る阪急バスの中.誰かに言いたいんだけどその日はそのまま誰とも会わず喜びをかみしめた.その晩お金もないので缶ビールで一人で乾杯した後行ったコンビニで浅香唯の"セシル"がかかっていた.(別に浅香唯が好きなわけでもないのだがこの曲を聴くたび当日のことを思い出してしまう...)