ZXRに乗るようになってからしばらくすると長年愛用していた無印RAPIDEのインナースポンジがぼろぼろになって首筋に溜まるようになってきた.気持ち悪い.しかし,我慢してそのまま被りつづけていると,クッションがほとんど利かなくなってしまった.一方ZXRを譲ってもらったときにSHOEIのヘルメット(サイズL)もつけてもらったのであるが,新しく買う金もないのでそれを被るしかない.しかしそのSHOEIのヘルメットを被っていると,しばらくしてからライディングポジションにしっくりこないことが判明した.ヘルメットの頭の入る部分の懐が深いため,どうしても開口部の上端が眉毛のすぐ上にきてしまう.信号で止まったときに一番前でとまるとかなり見上げなければ信号が見えない.そればかりか走っている最中にも自然にへっぴり腰になってしまう.
ZXRは本来後ろ目に腰掛け,タンクを腿で挟み込みポジションを維持する乗り方がしっくり来ると思っている.それができないヘルメットに及第点はやれない.ここはあたらしいARAIを買うか...しかしそんな金はないのであーる(そればっか).ここでない頭を振り絞って考えること数分間...いかれたのはインナーのスポンジであって,インナーを形成している布地やもちろん帽体は無傷である.然れば,インナースポンジを交換すればよい...RAPIDEをじっくり見てみた.さっぱりスポンジの落ちた様子はきれいとしかいいようがない(かすが時折ぱらぱら落ちてくるが...).幸いにもスポンジが落ちたおかげでほとんどの構造は見て取れた.頭の中で組み立ててみる.一休さんの"ぽん,ぽん,ぽん,ちーん!"が鳴り響いた(古い).思い立ったが吉日...であるが,この場合の安全度は保証の限りではない(くれぐれもまねしないよーに.そんな奴いないってか?).
このRAPIDEはダークメタリック単色で当時白,黒,銀,赤などしかメジャーではなかったときに,この色を選んで自分なりに偉く気に入っていたのであった.十数年が経過しようとしているが,やはり古くはなってもよき友としてまた付き合いたいものだ...などと感銘に浸るうち作業開始.
まずスポンジかすや汚れを落とすため,水洗いする.こんな時,洗面所に朝シャン用のシャワーが付いていると便利である.もう隙間という隙間に水を噴射し,元々付いていた接着剤や,帽体の天井に付いていたネットなども吹き飛ばして外し別途乾かす.帽体の表面も石鹸で洗う.最近のヘルメットはインナーを取り外して洗えるのが当たり前のようだが,この古いタイプでこれをやる奴はそういまい...
これを天日で乾かす.途中雨が降ったこともあってまるまる1週間野ざらしになったヘルメットにはほとんどスポンジかすさえも残っていなかった.インナーの布地も見事なまでに全部帽体からはがれている.スポンジは会社で拾ってきたもので製品運搬のときに使われた梱包材の端切れである.これを10mm厚ぐらいにカッターでスライスしてスポンジシートを作る.なかなかうまく切れず,出来栄えは最悪である.しかし,完成後は布地に隠れ見えなくなる部分であり,OKとする.
まず頬に当たるパッドを入れる.この部分無印RAPIDEでは袋状になっていて,裾と開口部の下側に渡されるように布地がはってありその布地の左右に穴が空いている.ここにスポンジを適当な大きさにきって挿入するわけである.かなりきれいに挿入するまで手間取ったが,左右の余った布地を中に折り曲げ,スポンジを隠し,何とか左右の頬に当たる部分は出来上がった.
次に後頭部.適当に局率を考えスポンジを3つにわけて切り出し,それらが布地の中に隠れるようにきってゴム系接着剤で帽体に貼る.その後布地をスポンジに貼り,後頭部出来上がり.前頭部,側頭部にも布地に隠れるようにスポンジを切り出し,同じように貼る.最後に頭頂部のスポンジであるがこれは水洗いのときに剥ぎ取ったネットに形をあわせスポンジを切り出し,そのスポンジを貼った後にネットの外周を接着する.
帽体の裾に首筋に沿うようにしてスポンジが入るスペースがある.ここには風通しをよくするため一部ネット状になっている,この部分は完全な袋状で,外部から何の工夫もなくスポンジを挿入することは不可能である.ぼろぼろになった元のスポンジは小さく破砕されていたので容易にそのネットを通って排出されたしまったのだが...お裁縫の時間である.
まずネットと布地の境目にカッターを入れる.左右同じように約30mmの隙間を空け,そこから左右と後部のこの袋の形状にあう形にスポンジを切り出し挿入する.その後カッターで切った部分をちくちく縫いあわせるのである.裁縫にはある程度に自信があるが,片やネット,片や張力のかかった布地で,手作業で縫いあわせるのは苦労した.出来栄えは見えるところであるにもかかわらず芳しくない.それもまた善しと自分を言い聞かせ,ここでいったん出来上がりである.接着剤はここではゴム系のものしか使っていないので,養生は1日もやれば十分である.
後日の試運転では,16○km/h以上において風圧のため頬の部分のホールドがいまいちでマウスガードの部分がちょうど口に当たるほどにヘルメットがずれてくるという点が発見できた.また,シールドも10数年換えていないので夜間走行では周りの景色が星の瞬きのように見えて非常に危険である.
課題をクリアするためにまず頬の部分のスポンジの厚さ変更が必要である.それだけで十分なのだろうか..スポンジが入るべきスペースについて再度ヘルメットを観察した.あご紐の出ている前にスポンジが入るスペースがあった.恐らくこの部分のホールドがないために風圧でずれてきてしまうのだ.一旦入れたスポンジを取り出し,新たに見つかった顎ひも根元上のスペースと頬の部分のスポンジを一体で切り出す.厚さは約20mm.明らかに以前とは違う弾力ににんまり.装着感もちょうど耳の前部分でスポンジが利いているので,非常によい.
シールドは当初10数年たったものに合うものがあるか疑問であったので,まず修復を試みた.ポリメイトやワックス,コンパウンドといろいろ試したが事態は悪化する一方であった.しかたなく用品屋さんをめぐるも該当する在庫はない.ARAIのwebで,いまだラインupには含まれていることはわかった.用品店でオーダーを入れると3500円!高い...ロックハートのスクリーンの1/4もするのかと半分驚き,とりあえず妻に甘え,命乞いのような形で予算申請.
シールドがやってきた.完璧になった無印RAPIDEは美しい光沢を放っていた.さっそく試運転.16○出してもずれない.夕映えの中を走っても乱反射がない.最高である.安全性が本当に保証されているのかは事故って強打でもしない限り分かりはしないだろうが,分かりたくもない.これでいいのだ.