ご神体のところの話

クライマックスということでご神体の外輪山のシーンは本作でも特に秀逸といえるポイントだと思います.いろいろ感じるところがありますので,少し語ってみます.

まず,カタワレ時が始まったところから.まずこの瞬間お互いの入れ替わりが解かれ,初めて正常な形でお互いを認識ます.このときに瀧くんは一度ゆっくりと目を閉じます.これはある意味リセットのような意図があるのかもしれません.今まで三葉としてみてきた景色を自分の目で見ているという認識をあえて高め,自分の意識に埋め込むような.そのあとの”三葉”という呼びかけとも慈しみともとれる優しい言葉.神木さんの演技力なのか,新海監督のシナリオ動画のなせる業なのか,この言葉にかなり魂を揺さぶられます.

一方の三葉のほうもこの瀧くんの少しスローモーな動作の間,無言になっています.三葉にとってはこの時初めて瀧くんの入った瀧くんの姿をしっかり見れるようになります.それまでは自分が入ったお互いを鏡で見たのと,総武線の中での瞬間のみです.特に三葉にとってはちゃんと高校生の瀧くんを見るのは初めてということになります.そこで,”瀧くん.瀧くん?瀧くんがおる”です.記憶の流れでいえば三葉は中学生の瀧くんを見たことがあるはずなのですが,その瀧くんには必然的に冷たくされてしまいました.その影響で髪を切ってもらうほどのショックを受けるわけですが,それからほぼ1日しかたっていないのになぜか糸守に高校生の瀧くんが現れ,しかもあの優しい言葉をかけてくれたのです.

三葉のその瞬間の感情の変化は計り知れません.わけのわからない3年のタイムラグをもやもやと感じつつ,失恋したかのような状態から自分が一度死んだことを認識し,まるで絶望の淵にいたのが,急に入れ替わりとカタワレ時で本当の瀧くんに会うことができ,その瀧くんがなぜかとっても優しいのです.ですから瀧くんの姿を上から下までを見返した直後は,その状況を信じられないような顔になります.次に昨日のことを思い出したのでしょうか?少し悲しい顔をして,でも目の前にいるのは瀧くんそのもの.気持ちは”嬉しい”という感情が強くなり,すぐに涙があふれてきます.そしてそれがぶきっちょな笑い方に変わっていくのです.時間にして数秒の中に何種類ものの複雑な感情の動きが三葉の表情で表現されていると思います.

次に口噛み酒のくだりです.実際瀧くんは自分が飲んだ口噛み酒がどのように作られたものか知りませんでした.また三葉はその口噛み酒はまだ作ったばっかりで醸造されたものではなく,まだドロッとしたまんまのイメージです.ですから”あれを呑んだぁ?”となるのでしょう.そういいつつも後ろずさりながら驚愕の表情をしている三葉は実は少しうれしそうでもあります.間違いなくあの隠している口の部分は少し笑っているような感じなのかなと想像していしまいます.

さんざん入れ替わった後ではあり,それなりの絆を既にお互い感じていたと思いますが,口噛み酒を瀧くんが飲むことで,さらに強い”ムスビ”を実感したのかもしれません.それに続けて胸の話.これもはっきり言ってもう三葉は嬉しそうにしか見えません.確かにいやなだけだったらそんなこと本人に直接クレームするはずありません.むしろ瀧くんが触りたくって触ったことを確認しているかのよう.1回かどうかについても,はっきり言って許していいのか,突っ込むべきかすぐに気づけよと思うぐらい.胸をどうのこうのははっきり言ってどうでもよくなっています.結局瀧くんの謝罪も心なサラッとしたものになってしまいました.むしろ赤裸々にこんなことをテンポよく言い合えるお互いをホントに楽しく,うれしく思っているのだと思います.

最後もう1点なのですが,瀧くんの手のひらに書こうとした文字.横一文字がひらがなの”み”や三葉の”三”にしては長いです.まあペンが制御を失ってその結果長い線になってしまったという見方もできると思いますが,この点私は少し勝手に深追いしてしまっています.というのも三葉は瀧くんが自分の名前を書かなかったことを実際わかっていたのかも?と考えていたりするのです.すると三葉は何と書こうとしていたのか?

この時点で三葉は自分が東京に会いに行ったことを瀧くんが知っている.すなわち自分の瀧くんに対する気持ちはとうにばれていると思っています.そこへきて瀧くんがあの文字を書いた.すると三葉はその上を行きたくなるのかな?と考えたわけです.したがって三葉は

大スキ

と書こうとしたのではないか?なんて思うわけです.実はそれには理由があります.瀧くんは三葉との記憶が強制的に失われるという経験をこの時点ではしているわけですが,三葉は自分が死んでしまっただけで,記憶だけが失われるということを経験していません.ですから”名前忘れないように”と言われてもその必要性を感じていなかったのではと思うのです.そこに”名前書いて”といったとき瀧くんが違うことを書いたとしても特に疑問を感じないのかも知れません.入れ替わりでさんざんお互いクレーム競争してきたような関係にあったわけですから,三葉は瀧くんに向こうを張ってそれ以上を表現したのかもと想像してしまうのです.

まあここまで行くと妄想爆発しすぎだろうと自分でも思うのですが,やっぱりお互いへの気持ちというのは瀧くんよりも三葉のほうが強かったと思うがゆえに,そのような想像をしてしまう私なのです.

KEN-Z's WEBのトップへ NEXT