二人の純粋さについて

君の名は。の観覧者の特徴としてリピーターが多いというのが挙げられます.その多くが三葉と瀧くんに再び会いたいという感覚の下,映画館に足を運んでいると思います.確かに私もリピーターであり,美しい画像の中にストーリー上のヒントが隠れていたりするのを探す意図もあるものの,一番の理由はその大多数の方々が感じるものと同じであると感じています.それではなぜこんなにも三葉と瀧くんに何度も何度もあいたくなってしまうんでしょうか?

この理由はなかなか一言では言えないと思いますし,実際人によって感じることは千差万別なのであくまでも私見でしか言えない部分ではあります.ということで私がもっともその要因として考えられるのが,二人の純粋さです.まあ不純なところがないかというと瀧くんが起床後にモミモミしてしまうことろとか,思春期なりのそれはあったりしますし,スマフォの伝言でやり取りしている文章からは純粋さのかけらもないような低レベルの会話もあったりします.でもストーリー全体の中でこの二人の純粋さが大きな役目をはたしていると思われるポイントがあります.

その最も印象的なポイントというのが,二人が糸守の人々を救うことしか考えなかった点です.恐らく単純に考えれば再演において瀧くんは三葉にだけ逃げるように伝えることもできたはずです.一番単純なのは自分が入れ替わっているときに自分だけ被災エリアの外に逃げておくということ.でもそれを実行してしまったり,それを示唆でさえもしてしまったら三葉が悲しみ,その先の人生を悲観して暮らし続けるであろうことを容易に想像できたでしょう.だから町全体を救うしかないと決断をしたのです.そのために数少ない三葉の友人であり,それでも心底信頼を置けると瀧くんが判断したテッシーとサヤちんを巻き込み,全体を救うことを追求し続けます.その強い意志をもって再演のお膳立てをしている瀧イン三葉に至っては例え町長に避難を拒まれた落胆の中でも子供たちを助けようとしたり,それはそれは必死です.もう顔が完全に瀧くんになってしまっているほど.

その背景として,三葉のみならず瀧くんもが糸守の町と人々に愛情を感じていたことも重要なポイントと入れるでしょう,小説,映画ともに実際瀧くんが高校の関係者以外の糸守の人と交流するところは事後のラーメン店店主ぐらいしかいませんが,瀧くんはあのような短期間の入れ替わりであっても糸守の人々に親近感を感じられる素養があったのではいでしょうか?それは瀧くんの入社面接の際の発言に見て取れます.小説の中では建設会社の面接で,”建物のみではなく街の風景,人の暮らしている風景全体を好き”だとコメントしています.確かにドライな目で見るタイプの面接官ならば,こんなクサいことをいう学生は落としてしまうでしょう.ただ瀧くんは純粋に自分の想いを吐露して,あのような応答をしたのです.

瀧くんが糸守の街並みが好きであったことは,記憶の糸をたどっただけで郷愁あふれる糸守の風景を絵にしたためることができたことからも明らかです.そこには糸守の人々の暮らしがあり,その中であの風景が長い年月をかけて形作られていったはずです.その中で,出来上がった風景のみではなく人々の暮らしがいかに重要かを実感できたのだと思います.確かに東京の真ん中にいたまんまであったら,風景と人々の暮らしのつながり(=ムスビ)を実感することもなかったでしょう.糸守で初めてその事実に気づき,街の風景や自分のもともと興味のあった建造物などが人の暮らし,生命の営みに源を発していることから,人々を救わなければいけないという使命感を感じることができた.

また,三葉は田舎はいやだといいつつ本来は糸守がとても好きだということも瀧くんが上記のような感覚を持つのに非常に重要なポイントだと思います.お互いの身体への入れ替わりの中でも,その身体の持ち主のもともと持っている感情というのがわかるという意味のモノローグもありましたし,小説の中でもこの入れ替わりがそのような特徴を持つものであったということを言っています.したがって瀧くんについては入れ替わりの際に三葉の糸守を愛する気持ちを感じることができ,あたかもそれが自分の感情であるようなとらえ方ができたのでしょう.また日々の東京での暮らしとのコントラストの中で糸守がまるで自分の故郷であるかのような感情を持つに至ったことでで,糸守の町が失われることにショックを受け,さらに住民への守りたいという感情が強く芽生えたのではないかと思います.

そのような背景からも二人が三葉だけとか知り合いの範囲だけを助けるとかをこれっぽっちも考えたり言葉にしなかったのかと思いますし,もし二人の純粋さが欠けていたならば結果は大きく違ったのではと憂慮してしまいます.例えば私がもし瀧くんだったら町の人々のほうは簡単にあきらめてしまって,自分の好きな女の子だけを助けることに注力し結果的に自分の身一つで連日東京に行っちゃったりするんでしょうけど,そんなことしたらあの素敵なエンディングは絶対あり得ないんでしょうね.やっぱり二人の純粋な気持ちがとっても重要なわけでして,そこが見終わった後にほとんどの人が三葉と瀧くんを大好きになってしまう理由なんでしょう.

こんなこと書いていたら,また二人に会いたくなってきてしまいました.これってたきみつ中毒っていうんでしょうね.

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