君の名は。アフター小説- 帰省(第七章)

二人にどうしても懐かしいシーンを見せてあげたくって。

第七章 − カタワレ時 −

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さんざん祠の前で三葉と騒いでしまったので神様もさぞお怒りモードだろうということで、三葉に鎮めてもらうことにした。しばらく目を閉じて深呼吸をした後、三葉は何か荷物の中から取り出して荷物の上に置いた。そして跪きながらきれいに背筋を伸ばした三葉が深く深呼吸をしてその儀式が始まった。

「かけまくもかしこき宮水の神の社の大前にかしこみかしこみ白さく。大神の広き厚きみたまのふゆによりて、―」

普段の三葉の声とは違う、トーンは変わらないものの明らかに声量の異なった透明感の増した声でそれは始まった。ご神体の空間に響き渡り、まるで夢の中にいるような心地よい音色になっている。俺はその言葉の意味をかみしめながら目を閉じた。

一通りの祝詞のようなものが済んだところで、三葉が白い紙に包まれたものを取り出して、そこにあった瓶子を取り除き、あらたに祠の左右に置いた。一つは組紐だ。もう一つは紙で束ねられた何かで、三葉の後ろからでは暗い中では何かわからなかった。

最後に深く一礼して三葉が俺の方に振り向く。
「はい。おしまい。」

”いや、それだけかよ”と拍子抜けして三葉に尋ねる。
「それって組紐と、もう一つは何?」

「ああ、これ?私の髪の毛やよ。」
”ええっ?髪の毛切ったの?俺は黒髪ロングが好きなのに。”と、心の中で思いつつ、少し驚いてみたら、三葉が補足するように続けた。

「私が彗星の前におばあちゃんに切ってもらった髪の毛。彗星の時におばあちゃんが持ち出してたらしいわ。組紐も彗星の時に私がしてたやつなんよ。」

俺は組紐と髪の毛にLEDライトを当ててしげしげとみる。組紐は少しほころびているところもあって、長く使われていたもののようだ。髪の毛については確かに三葉の髪色で、8の字のように束ねられている。俺は匂いを嗅がんばかりに顔を近づけて凝視する。
「ちょちょ、ちょっとぉ。瀧くん。顔近づけすぎやに!」

「すまん、つい。」
俺もそんな髪フェチというわけではないけど、高校生だった三葉の髪の毛ということで俺にとっては特別な意味を持つ。どうしても俺のものにしたくってそれを言葉で表現する。

「この髪の毛って少し余ってないの?」

「こっ、このっ、変態っ。」
と俺を罵倒しながらも三葉は続ける。
「今日は髪の毛が私の半分。で、組紐は誰かさんの半分。」

そういえばこの組紐は長い間俺が身につけていたものなのかも知れない。そんな気がする。

三葉は瓶子2つの表面をきれいにふき取り、荷物の中に入れようとしている。どうしても気になるポイントを質問する。
「そっちの残っているほうの酒はどうするんだ?」

すると三葉は呆れたきったような目で、
「おばあちゃんに正しい手順で処分してもらうんやけど。何か?」
と既に変態扱いを受け、じり貧状態の俺を挑発するかのようだ。

ならば、ここは本心を暴露するしかなかろう。
「いや、飲まないのかな〜、なんて。」

「うわぁ、瀧くんマジでやばいわ。四葉に言っとこ。」

思った通りのリアクションだ。

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かなり長くご神体の中にいたので、もうすでに日が傾きかかっていた。思ったより時間が経過していたのと、下山するときに少しでも荷物を軽くしたかったので、外輪山の上でお弁当にすることにした。大きな石に二人並んで腰かけ、糸守のひょうたん型になってしまった湖を見ながらお弁当を頬張っていた。俺はさっきの三葉の違う一面を見れたような気がして感動をそのまま言葉にした。

「それにしても、あれ祝詞っていうんだっけ?三葉の声すごくきれいだったな。思わず聞き入っちゃったよ。」

「あぁ、あれはうちの神社は申立っていうんよ。中身はほかの神社の祝詞と同じようなもんみたいやけど。」 と、三葉は少し頬を赤らめながら説明してくれた。なので俺はもう少し三葉も持ち上げておこうと思ったりした。
「あんな長いのよく覚えてるよな、もう何年もやってないんだろ?」

「あれは一番短いやつやよ。おばあちゃんなんか30分近くのもできるんやから。」

「30分も?それはちょっと勘弁してほしいな。はははは。」

何でだろうか、この外輪山の上で二人で他愛もない話をしているのが無性に心地よい。この場所が俺たちにとって特別な意味を持っていることをもうお互いに気づいている。なので、ずーっとこうしていたい。それに遠い昔にまだ不十分と思いながらも強制終了させられてしまったかのような、それを今になって取り返しているような気分だ。少しでも三葉とここに一緒にいたい。

なので三葉も同じようあ気持ちなんだろう。日没が近いというのに水筒からコーヒーを注ぎながら、
「夕日の色が東京よりも白っぽいね〜。」
と忘れていたことに今更感心したように言う。

「ああ、空気が澄んでいる分、空中のごみが少ないからな。俺もここの夕日好きだな。」

そういった俺の肩に三葉が寄りかかる。
「私、彗星のことがなかったら瀧くんに会えなかったと思う。けど今は糸守が無くなって寂しい気持ちもあるんよ。」

俺は無言で三葉の声を聴く。

「お父さんが糸守の復興事業やってるけど、私はどうしたいのか時々考えるの。でも、もう瀧くんとは離れたりしない。絶対に。」

三葉の髪の匂いがした。俺も同じ思いだ。そう言葉にする代わりにに三葉の肩に腕を回し、強く抱きしめた。

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不意に風がやみ、瞼に映っていた陽の光が消えたように感じ目を開けた。

「カタワレ時だ。」

三葉と俺の声が重なった。人の輪郭がぼやけ誰かわからない、あるいは人ならざる者に会うかもしれない時間。

そう思い出した途端、体に感じていた重力がすーっと抜けていくような感覚になり俺は無意識に目を閉じた。やがて再び目を開けたとき俺と三葉はなぜか空中にいた。そして俺たちはご神体の真上から外輪山越しに糸守湖を俯瞰で見ているのだ。まるで見えないブランコに二人で腰かけているように少し風に揺られながら、新糸守湖のない丸い糸守湖の方向を見ているのだ。

そして外輪山の上に人影があるのに気づく。三葉が声を上げた。

「あっ。あれ私と瀧くんやよ!」

あり得ない光景、なのに記憶の底に沈んでいたかのように今まで触れることがなかった光景を、いま目のあたりにして俺は動転していた。あまりのことに声が出ない。しかし俺の心配をよそに三葉は違った。

「きゃ〜。やっぱり瀧くんのジャケット今のとおんなじや。カッコええなぁ。それにちょっと若いな〜。かわいいわぁ。」
三葉は楽しそうに、そして一方的に無言の俺に対して実況を伝える。

「あっ!なんか私泣いとる。ちょっと変な顔になっとるに。瀧くんちょっと見んといてぇ。それにしても声聞こえたらいいのに、聞こえんの残念やなぁ。」

そういいながら三葉は外輪山の上で玉のような涙をジャバジャバ流しているもう一人の自分にもらい泣きして、すでに鼻声だ。
確かに彼らとは距離があって俺たちに声は聞こえない。でも俺も三葉もその会話の内容はわかっている。記憶から消えていたものが目の前の光景に触発され、そのシーンごとに脳内にこだましてまるで次々と生まれ来ているかのようだ。

俺たちよりちょっとだけ幼い二人は怒ってみたり、謝ったり、笑ったり、真剣に相談したり。あの日の俺たちにとって、とても大切な時間が過ぎていく。二人の感情が俺たちの中に音を立てて流れ込んできて、すでに俺も三葉も涙腺が崩壊してしまっている。

やがて二人がペンで手に何か書きだした。

そこですとんと音がするように俺たちの意識が外輪山の縁に座っている自分たちに戻った。

カタワレ時が終わったのだ。

俺と三葉はまだ薄明りの残る西の空を見ながら、しばらく無言で涙を流していた。カタワレ時のもたらした不思議な時間の余韻に浸るながら、あの光景を忘れないように記憶に刷り込みなおしているかのように。ぬぐった涙がお互い風にさらされ乾きかかったようなタイミングで三葉がようやく口を開く。
「瀧くん、これであん時自分がなんて書いたか思い出した?」

確かに俺はあの文字について記憶を取り戻していた。しかし、記憶にあるのになかなか声に出しにくい言葉だ。
「あ、ああ。あんな言葉書いたんだな。なんで名前書かなかったんだろうな?」

三葉が少し不満な様子で、
「そんなことより、なんて書いたか答えないっ!」

三葉さん、こわっ!

「はい!」
と言ってから三葉の耳元でささやく。
「…。」

「正解。」
三葉が満面の笑みで柔らかく首にしがみついてきた。そして俺の鼓膜に届くギリギリの声量でつぶやく。

「私も…やよ。」

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夏の季節は少し日没後でも明るい時間帯があるので、私たちはLEDライトを手に下山を急いでいる。高度も下がってきて汗ばんでも来たのでTシャツ姿になって先を歩く瀧くんの背中を見ながら、
「瀧くん、肩幅大きくなっとるよねぇ。背も少し伸びたんかな?」
と聞いてみた。

「肩幅はわからないけど、背は5cmぐらいしか伸びてないよ。それより三葉は結構、その、あの大人になったというか。ずいぶん変わったよな。」

私は無言で瀧くんの背中をひっぱたく。
「何か瀧くん、いやらしいわ!」

「いや、綺麗になったって言ってるんだよ。」

う〜ん、ちょっとうれしいけど、まだ瀧くんはやっぱりわきが甘い。一応突っ込んでおこう。
「それじゃあ、高校生の時の私がかわいそうやにん!」

「はぁ〜。」
瀧くんが深くため息をつく。多分”女子との会話はムリゲー”とか思っているのかもしれない。ちょっといじめすぎたかもしれないけど、これも教育の一環なのだ。

林道へもあと30分程度で、そろそろスマフォの電波が届くところまで来たのでお父さんに電話を入れる。少し遅くなったので心配していたようだけど、まあ高校で時間をとってしまったのでしょうがない。

林道に出て程なくしてお父さんが到着し、私たちは車に乗りこんだ。

「えらく時間がかかったな。何かあったのか?」
お父さんは怒ってはいないけど、心配してくれていたようだ。

「ご神体に入れないと思ったんやけど、水が引いててご神体に入ることができたんよ。そこでお供物のご奉納したりしてたら時間がかかってまって。」

「そうか、彗星の後はずーっと増水していたと聞いていたが、珍しいこともあるもんだな。」

その後お父さんの話では、お母さんに会ってすぐに一度研究の一環でご神体へ行って、それから神主だったころは儀式のたびにお母さんと訪れたことがあるそうだ。新婚の時にはピクニックのようなものだったので、今となってはお母さんとのいい思い出だそうだ。私も何度か四葉が生まれる前までは何度か3人で行ったことを思い出した。お父さんは彗星後は小川が増水しているという話だったので、宮水家を出て以来一度も行ったことがないようだ。

「今度四葉とでも行ってみようか。」

懐かしい目をしながらお父さんが漏らした一言に私は少し心が温かくなった。

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瀧さんとお姉ちゃんの帰りが遅かったこともあって、その夜は5人で近所の郷土料理屋さんで夕食を取った。普段は地元の郷土料理なんて食べることはないので、前は何度もっとったことがあるけど私は初めて来るお店だ。お父さんはいろいろ仕事の延長で使っているお店だそうで、お店の人ともかなり親しく話している。

料理の中身は飛騨牛のしゃふしゃぶがあったり、飛騨に住んでおきながら私は初めて口にするものが多かったように思う。瀧さんはどんな田舎料理でも”うまい、うまい”と言って食べている。漬物ステーキとか何かと漬物をベースとした朴訥な料理ばっかりなのに、東京で食べる料理と体に入っていく感覚が違うのだそうだ。私からすれば東京で食べる料理の方が格段においしいし、五臓六腑に染み渡る感覚がより鮮明なんだけど。

「お姉ちゃん、そういえば今日は高校とご神体、どうやったん?」
”どうせイチャコラしてたんでしょ的”に想像しつつ聞いてみた。

「高校はね、やっぱりいろいろ壊れてるところがあって寂しい気もしたけど、やっぱり懐かしかったわ。ご神体はねぇ、今日は水が引いてて偶然中に入れたんよ。なんか瀧くんが探しとったもんもいろいろ見つかったみたいやよ。」

なんかお姉ちゃんの思い出のために行ったと思っていたのに、いきなり瀧さんが出てくるとは。 「瀧さんの探しとったもんでなんなんですか?」

食後のデザートの代わりに頼んだからすみを口に運びながら瀧さんが、
「いろいろだよ。」
と少しめんどくさそうに答える。

ちょっとイラっと来た。隠し事をして周りの人に対して二人の親密度を上げようという”相対性”理論に乗っ取った会話のような気がして気に食わない。
「もったいぶらないで教えてくださいよ〜。」

「あっ。じゃあ。」
と瀧さんがポケットからなにやら取り出す。

「マッキーじゃないですか。」
見たまんまを言ってみた。しかし蓋が開きっぱなしでペン先もボロボロになっているので、見た感じゴミとなんら違いがないものを何で?

「そうだよ。」

このヒト意外にぶっきらぼうなことろがあるな。今後注意しとこう。
「これをどこで?」

「ご神体のところにあったんだよ。」
いや、一応使えなくなっているとはいえ文房具なんだから、どう考えても学校でしょう。ちょっと頭が混乱してきた。そんなものを探しにご神体まで行くというのは酔狂すぎる。このヒトやっぱり新興宗教の人なんかしら?

「瀧くん、もう一回それ見せて。」
お姉ちゃんが参戦してきた。少しは糸口が見つかるかもと期待して、
「お姉ちゃんもそれに何か関係あるん?」

「そうやよ。これで瀧くんが告白してくれたんよ。」
もうわけわからん。この二人特有の異常性にはもう付き合ってられない。

私が閉口していると、
「そうや、四葉。今日四葉のお酒持ってきたんやよ。」
とお姉ちゃんが口噛み酒という言葉を敢えて避けて話しかけてきた。

そういえば、あの時の自分が作った口噛み酒を奉納前に口にしてえらい目に遭ったことがある。要はあのなれの果てということになる。わざわざ持って帰ってきたということはご神体のそばで捨てたりすると罰が当たったりするんだろう。
気になったのでおばあちゃんに聞いてみる。
「おばあちゃん、戻してもらったお酒はそのあとでどうするん?」

少しタイムラグがあったが、何か思い出したような顔でおばあちゃんが答える。
「あはははは、あんたが持っときや。それはあんたの半分やからなぁ。」

「えっ?そんなもんなん?」

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さっきから私は机の上に置いた瓶子とにらめっこをしている。
”さて、これをどうしたもんか。”

神様に一旦お供えして、それをわざわざ引き取ってきたということになるけど、何もなくこれを捨ててしまうと罰が当たってしまいそうだ。それに例え私ができる限りの申立(通常は祝詞というもの)とかをして、何かしらの儀式をやったとしても神様が満足することはないだろう。おばあちゃんもめんどくさがってあんなことを言ったのかも知れないし、どうも腑に落ちない思いで私はその瓶子を凝視している。

お姉ちゃんが晩御飯から帰ってきてすぐに私にこれを渡してくれたので、お姉ちゃんの奉納した分はどうなったのか聞いてみた。すると少し不機嫌な顔で、
「誰か頭のおかしい人が飲んでまったみたいやよ。」
と言った。 隣で瀧さんが少し変な顔をしていたのが印象的だった。確かにあのご神体に忍び込んでわざわざ口噛み酒を飲んだとしたら、かなりディープな変態の匂いがする。お姉ちゃんのだけということで犯人はJKコンプレックスを持った人ということになる。いや待てよ、私のだけをもし飲んだとしたら、”もっと変態”なような気がしてきた。もうそうなると”事件”だ。なので私の方でなくってよかったと安堵する気持ちもあったりする。

それはそうと、このお酒、神様は果たして飲んだんだろうか。確かに少し量は減っているように思う。まあ、あんなに長くご神体にあったわけだし、蒸発したってのもあるかも知れない。ワインなどで樽の中で醸造している間に少しお酒の量が減るのを”天使の分け前”というそうだし、天使も神様も似たようなもんか。だったら、神様がその減った分を飲んだってことで、残りはどうしたって私の勝手ということになると、自分の拡大解釈で安易なほうに解を見出した。

で、本題にもどると、これを一体どうしたものかということだ。おばあちゃんは私の好きにするのがええみたいなことを言っていた。それってどんな選択肢があるんだろうとひとまず考えてみた。

1)末永く所持する。
2)自分で飲み干す。
3)将来の旦那様に飲んでもらう。
4)なぜか少し飲みたさそうな瀧さんに飲ませる。
5)悪霊退治のときにまく。

1)はないな。正直こんなやっかいなものずーっと持ち続けたくはない。何かのイベントでパーッと放出してしまった方がいい。2)はまだ未成年なので飲み干すほどは無理。ちょっとだけならいいかも。3)はかなり淫靡な香りがする。いいかも。でも今はそんなことよりも受験だ。4)は自分が何かにまけてしまったような気がするので却下。5)はそんなことあってもらっちゃ困るし、”私の半分”が悪霊に飲み込まれるのもイマイチ怖い感じもするので除外だ。

ということで、本命は3)ということになる。でもその旦那様がいきなりおなかを壊すのもかわいそうだ。元々あんな味しかしなかったわけだし、9年もたって一旦お酒になってもその後でまた違うモノに変わってしまっている可能性だってある。もしそうならば、すぐに捨ててしまった方がいいかもしれないし、押し入れの奥にしまって無かったことにするのも手かもしれない。

なのでここは飲めるものかそうでないかで判断しよう。ということで意を決して9年ぶりに”味見”をしてみることにした。蓋を封印している組紐をほどく。カビなのか苔なのかわからないけどあたりに何かが飛び散った。

”うへぇ。”こりゃ飲めないかも。と思いながら中にあるコルク栓を開け、鼻を近づけて匂いを嗅いでみた。あれ?なんかお酒っぽい匂いがする。色もなぜか透明になってしまっている。思わぬ展開に私は少し神秘を感じてしまう。蓋と、瓶子の口のところをウェットティッシュで綺麗にして、蓋に少し注いでみた。前の時は指に少し付けただけであれほどの破壊力だったけど、これならいけるかも。なぜだか私の気持ちが徐々にポジティブになってきた。

”なるようになれっ!”
と念じながらぐいっといってみる。意外に蓋の容積が大きくって、かなりな量を一気してしまったことを少し後悔する。のど元を過ぎている液体が喉と鼻の奥を熱くする。

”あれ?おいしい。”
なんだろう、お米を噛んでいたら出てくるあの甘さと、なんかイカの塩辛とかに含まれる麹のような風味が混ざって、これってしっかりとお酒なんじゃないかと思った。イカの塩辛を思い出して、やっぱりああいったものがお酒の肴に合うんだよねと実感した。大人になったら、そんな楽しみもあっていいかも。”ぷしゅーっ”とか言って。

ということでこのお酒が腐ってしまわないうちに未来の旦那様を見つけることが私の新たな目標になった。少なくとも瀧さんよりまともな旦那様を私は見つけなければいけない。そんなことを考えていたらだんだんいい気持ちで眠くもなってきたので、今日はもう寝ることにしようと思う。今日もお姉ちゃんたちがこの部屋を使うので、今夜も私はおばあちゃんの部屋で寝ることになっている。部屋にはいるとおはあちゃんはもう寝ていた。なので静かに布団を横に敷いて私は眠りについた。

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 第七章 了

 

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