君の名は。アフター小説- 私の恋(第二章)

どんどん三葉が噂の中心になっていきます。そしてあの橋のシーンに繋がっていきます。

第二章 − ラブレター −

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その翌日は私が待ちに待った豊穣祭の神楽舞の日だった。でも私は朝からドキドキしていた。なぜかって、昨日の三葉さんがあの感じのまんま神楽舞を舞ったとしたら、宮水神社の、いや糸守町の、いやいや世界の常識が塗り替わってしまいそうだったからだ。今晩、世界が混沌に突入してしまうかも知れない。そしてそのトリガ―は三葉さんという最悪のシナリオを昨夜から想像してしまい、一睡も眠れなかった。何度も何度も以前の動画を見返して、明日もこれ以上のものが見れますようにと神様に祈った。思い余って宮水神社にお参りに行こうかとも思ったけど、神社で起こることを私が祈ったところでどうしようもないのであきらめた。

そしてその夜、ある意味怖いもの見たさも手伝ってか、私は宮水神社から開場を知らせる神楽の音色が流れ始めると、脱兎のごとく宮水神社の階段を駆け上がった。この年はなぜか見物客が多かった。いろいろ大人たちが話をしている中身を聞いていると、その年は何十年かぶりに三葉さんと四葉ちゃんの2人で舞をやるみたいだった。私は三葉さんのありとあらゆることが大好きになってしまっていたので、妹の四葉ちゃんも当然大好きだ。例え三葉さんに振られても、四葉ちゃんが付き合ってくれるならば、それでもいいぐらい。齢とか性別とかそんな幼稚なことはもう私には何の意味もなかった。

そして、間もなく音が止み、宮司のおばあさんが何か儀式をやって奥の一段高いところに戻ったところで、三葉さんと四葉ちゃんが現れた。観客からは歓声と拍手が上がった。

”ああっ。いつもの三葉さんだ!”
私は張りつめていた緊張がほぐれ、その場にへたり込んでしまいそうになった。しかしスマフォで録画している手前、それを寸でのところで持ちこたえた。

神楽殿の脇の大きなスピーカー(のようなもの)から、お神楽が流れ出す。二人が完全にシンクロした一紙の乱れもない舞。時折打ち鳴らされる鈴の音が、2重になってそれ以前の二葉さん、三葉さんそれぞれ一人だけだった舞よりも音色に重厚さが増している。昨日のこともあったので、心のタガが外れた私はその時思わず泣いてしまった。しっかりと見ておきたいのに、目が潤んで、二人の舞の画像が滲んでしまう。それに鼻水まで出てきてしまい、不覚にもスマフォの動画に私の鼻をすする音が入ってしまった。

そしてなぜか私は、そのすぐそばに二葉さんがいるような気がしたのだ。それは単なる感情的なものではなく、霊的なものでもなかった。敢えて言葉にすれば”匂い”だ。二葉さんの匂いを別に意識して嗅いだことはなかったのに、なぜかその時”二葉さんの匂い”がしたのだ。でも、神楽が終わったところで周りを見まわしてみたが、ただ篝火の明かりに照らされた木々とその奥に暗がりが広がっているだけだった。

その不思議な体験をした後は、もう三葉さんに睨まれるのはいやなので、その年は口噛み酒の部分は撮影しないことにした。でも四葉ちゃんと二人での口噛み酒は是が非でも見ておきたかったので、私は少し後ろの方から見ていた。すると学校で聞いたことのある声がした。

「みてみいぃ、宮水や。」
2年生の中でもちょいワルぶっているあまり好きになれないタイプの先輩と、その取り巻きギャルが二人だ。あまり関わりたくないので、私は少しわきにずれて知らないふりをした。

その取り巻きギャル1号が、
「うわっ、私無理ぃ。」
といったら、今度は2号が、
「よくあんなん人前でやりよんな。」
と、私にとってものすごく不快な連携を見せた。

思わず私は、”三葉さんが大切なお役目のためにやっとるのに!”と食ってかかりそうになった。でもこんな大事な場所で先輩相手にもめ事を起こして三葉さんに迷惑をかけるわけにはいかない。なすすべもなく神楽殿の方を見ると、三葉さんはそれが聞こえていたのか悲しげな表情を浮かべていた。

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その夜、私は悔しくて悔しくてたまらなかった。神事が終わって、三葉さんたちが神楽殿を立ち去った後、神社の階段を無我夢中でかけ下りてうちに駆け込んで、布団に突っ伏した。私のとってはせっかく久しぶりに二葉さんの息吹を感じることができたのに、あんなのってない!三葉さんばかりか、大事な大事な神事そのものさえも愚弄したのだ。絶対に神さまはあの人たちに罰を与えてほしい。
悔しい。悔しい!悔しいっ!

枕をむしらんばかりにしごきながら私はあの耐え難い瞬間に何もできなかったことを悔いた。なのに私は前日の睡眠不足もあって、うちに帰って撮影した動画も確認せずあろうことかそのままストンと寝てしまった。そして、変な夢を見たのだ。

その夢で私は三葉さんの着ていたのと同じ装束を着て、あの神楽殿にいた。そして二人で神楽舞を踊っていたのだ。そのもう一人が誰なのか、確かめたいけどどうしてもそっちを向くことができず、だれなのかは特定できなかった。でもその人は二葉さんか、三葉さんか四葉ちゃんのような気がしていた。私は覚えた記憶もないのに神楽舞をほぼその隣の誰かと同じように舞うことができていた。神楽舞が終り、口噛み酒の段になった。

どうやっていいか、私がマゴマゴしていたら横から、
”貴方はやらんでもええんよ。”
と言いながら、その優しい人が私の分の升を取り上げてくれた。

その人は二葉さんだった。
二葉さんはあでやかさえ感じるほどに優雅にご飯を口に入れ、適度に噛んでは私の升をひたすら満たしてくれた。その姿を私は終始エロティックな何かを見るような目で見つめていた。自分の分だけでも大変なのに、私の分まで口噛み酒を造ってくれることに感謝して、私は二葉さんに申し出た。

「私も…口噛み酒作れるようになりたいです。」

「そう、じゃああの子と一緒にやってみて。」
指さした先には三葉さん、じゃない。間違え探しバージョンの三葉さんが制服のまんま座っていた。”ああ、やっぱり三葉さんじゃないから今から習うんだ。”と変な解釈をして、私は三葉さん間違え探しバージョンと並んで口噛み酒の作り方を実践しながら教わる。 

口の中にお米を入れてひたすら噛み砕き、その上に甘味が出てくるまで噛む。そして升に吐き出していく。三葉さんはこの恥辱プレイを毎年やらされてきたのか。観客がいたらとても私にはできない。改めて二葉さん、三葉さんの偉大さを感じた。横目でちらっと三葉さん間違え探しバージョンのほうを見たら、案の定しかめっ面のまんま淡々と口噛み酒を生み出している。

二人とも升がそろそろいっぱいになったところで二葉さんがとても優しい声で次の課題を出した。

「よくできましたね。次は口噛み酒に神聖な力を与えることにしましょう。では二人で口づけを。」

”え?ええええぇ!三葉さん間違え探しバージョンはまだ神聖な何かはもっていないはずじゃあ?だとすればなぜ今口づけって。何なの?”と
混乱している間にも三葉さん間違え探しバージョンが私のほうに歩み寄ってきて、私の顎を人差し指と親指で少し持ち上げた。だんだん濃い紅をひいた艶っぽい三葉さん間違え探しバージョンの唇がスローモーションで迫ってきた。さっきまでしかめっ面だったのに、なんでこの期に及んでこんなにも積極的なのかしらっ!いつもの三葉さんに戻って〜!
私はたまらなくなって、

「いやあああああああああぁー!」

と叫んだら、そこは私の部屋だった。

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”なんであんな夢見たんだろう。”

学校までの道すがらずーっとそればっかり考えていた。まず、私は口噛み酒にまつわる三葉さんの憂鬱というものを昨日まで理解していなかった。だからそれを知って口噛み酒についての夢を見たんだと思う。そして懐かしい二葉さんが私なんかの夢にわざわざ出てきてくれたのも、とてもありがたいことだし、歓迎すべきことだった。そこまでは良かった。なぜそこに三葉さん間違え探しバージョンが現れ、私が唇を奪われることになったのか。巫女と口噛み酒だけでもマニアック過ぎるのに、女同士でキスって変態だわっ!そこまで考えて、はたと思い出した。

”あれ?けど私って三葉さんと一体どうなりたかったんだろう。”

そうだ、私は確実に三葉さんに恋している。けど、それでいったいどうするということは考えたことがなかった。お付き合いするつもりもないし、まして結婚するわけでもない。もし三葉さんが私を受け入れてくれたとしても、逆に私も困ってしまうのだ。

三葉さん間違い探しバージョンの生まれたわけを私なりに考えてみるとつじつまが合った。女の子の鏡のような三葉さんと私がカップルになったら、両方とも女の子でこんな田舎では気持ち悪がられる。もしタカラヅカみたいに三葉さんが男役をやってくれたならば、三葉さんみたいな知名度の高い美少女がそれを買ってできることで、私のような平凡な少女とのカップリングは成立しやすくなるのでは?

”意外にこれっていけるんじゃね?”
なんて思ってしまった。えてして思春期というのはなんでも自分の都合よく考えすぎたり、逆に都合悪く増幅してしまったりするものだ。そのときの私はその前者をやってしまったに違いない。

そんなわけで、私は今考えればご都合主義極まれりだったけれど自分なりに結論付けてしまったのだ。

”三葉さんがそのカリスマ性に磨きをかける目的から、オンとオフを使い分けていらっしゃるのだ”と。

案の定その日の三葉さんは間違い探しバージョンだった。私はその三葉さんをオンの状態ということでオンの三葉さんと呼ぶことにした。糸守高校は1学年2クラスしかないので、他の学年の噂話とかも比較的早々と学校全体に走りわたる。”2年の宮水さんが変だ。”という話しはその日も私の耳に入ってきた。特に女の子同士の噂の内容は詳細なものだったので、私はその赤裸々な状況を逐一把握できた。

・自分の名前を忘れている
・じぶんの靴箱やロッカーも忘れている。
・総じて不機嫌
・足を開いて座るのでスカートからいつも下着が見えそうになる。
・ブラをつけていないで、シャツの下にTシャツを着ている。
・今日はリボンはつけているが、髪はポニーテール。

その日だけでも数回、それぞれ別の人の口からオンの三葉さんの噂を聞いた。確かに話題に乏しい田舎の小さい高校なので、こういった面白ネタはみんながみんなこぞって拡散しようとする。しかもそれが普段から有名な三葉さんなのだから、なおさらだ。

確かに三葉さんといえば今まで一歩引いて決して目立たないようにしていたし、その奥ゆかしさが私にとって大きな魅力であったのに、今やその全く逆をいくまさに出血大サービス状態。これには女子のみならず、男子も大いに反応した。

次の週にはうちのクラスの男子も口をはばかることなく三葉さんの噂をするようになっていた。まるで人気絶頂期のアイドルであるかのようだ。学年が違う私たちの元には多少尾ひれがついていて、信ぴょう性が薄いものもあったけど、

・階段を4段飛ばしで降りて、スカートがまくれ上がっていた。
・ノーブラで体育の授業でダンクシュートをしていた。
・男を誘っているのかも?
・そのわりに男子が話しかけたら、口汚くののしられた。
・美術の時間に乱闘騒ぎを起こした。
・神楽舞とのギャップで萌える。
・2年の女子が三葉さんをガードする組合を立ち上げた。

など、もうとどまることを知らない。ダンクや乱闘騒ぎは誇大表現だろうし、三葉さんが人をののしることはないと思うので、言われた人の思い込みなのかもしれない。それでも男子からの熱い視線はとどまることを知らず、三葉さんの男子受けは日に日に向上していったのだ。私もついに三葉さんに思春期が訪れてしまったのかもと懸念した。
”三葉さん、だめですっ。男子のものになっては。”

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「2年の宮水さんって最近すごいなぁ。」
今日は日曜日。秋物のバーゲン情報をもとに3人で名古屋にお買い物だ。その長い汽車旅の途上、千歳が三葉さんの話題に触れる。

「そうそう、前は近づきにくかったのに、最近は男女問わず敷居が下がった感じやさ。」
皐月も乗ってくる。私も三葉さんのことで二人と話をしたことはなかった。だってそれは私の秘めた思いを打ち明けることになってしまうから。でも今だったら三葉さんの話題も、そう意識せずに二人と話ができるはずだ。それでも私は
「そうやね。全校で噂んなっとるね。」
と答えた。

「もう糸守高校のちょっとしたアイドルみたいなもんやに。なんかこの前、神楽舞とかも踊っとったとかで、小さいときの動画もっとる子がおって、それが高値で取引されとるそうやで。」
千歳はもうすでに三葉さんネタでかなりな事情通になってしまっているようだ。

「ここだけの話、私のお姉ちゃんのクラスの男子が今度宮水さんに告るってゆっとったそうやで。宮水さん男と付き合ったりするんかな?」
皐月も特殊ルートで得た極秘ネタで対抗してきた。けど、ここまで来ると私も黙ってはいられない。

「宮水さんは絶対男なんかとは付き合わんよっ。」
突然の私の豹変に二人はきょとんとしている。

その言い訳のために少し背景も明かしておくべきだろう。
「私っ、実は最新の動画も持っとるしっ!」

「ええええぇ!まじで?」

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二人にこの前の三葉さんと四葉ちゃんの神楽舞の動画を見せたら、すごいことになった。絶対に三葉さんとお近づきになりたい、四葉ちゃんも含め男に渡してなるものかということで、3人でとにかく三葉さんとお友達になるビッグプロジェクトに発展していった。

まず、3人ともベストとカーディガンのおしゃれなのを買った。やっぱりタカラヅカの男役の三葉さんにはピンク系とかのベストやカーディガンがいいということで、私はピンクのベスト、皐月はライトベージュのカーディガン、千歳は意表をついて紺色のベストを星が丘のオシャレなお店でそれぞれ購入した。

その週のうちになんとか三葉さんを男の方向に走らせないために、3人でその憧れの気持ちを”告白”してしまおうということになったので、その手紙の文面は私が書いた。二葉さんの頃からのあこがれの記憶をふんだんに文章にして、千歳と皐月にもみてもらった。さすがに二葉さんのくだりが長すぎて、そこは削ったほうがいいということになったけど、二葉さんの写真でもあったらあの二人は絶対に同意してくれたに違いない。画像がないのはホントに残念だと思った。

さて、文面も決まって清書も済んだ。でもどうやって渡すかが問題。

まず学校の中はやめておこうということになった。そんなに広い高校ではないので、何かと人目に付きやすい。女の子が女の子にということで好奇の目で見られるのは望ましくない。

なので三葉さんの通学路で人目があまりなくなったあたりが良い。渡した後別方向に行くことができるということで、前後に分かれ道があるとよい。そうなると門入橋がちょうどよさそうだ。

あとは三葉さんの状態が重要ポイントになってくる。
これについては女の子からの手紙を許容してくれそうなのはオンとオフどっちかということになった。恐らくヅカの男役的な考え方でいくとオンの時のほうが優しく私たちを受け入れてくれるんだろうということになった。

なので、私たちは替わりばんこで2年生の教室に午前中偵察に行くことにした。偵察を始めて3日目。その日の偵察当番の皐月が教室に駆け込んできた。
「今日は佐々木小次郎やよっ!」

精一杯の隠語を使っているつもりだろうが、全校生徒の注目の的なのだから、それは隠語になっていない。心の中でツッコんでみたけど本題はそこではない。よし、今日決行だ。オンの三葉さんは放課後すぐに学校を出て勅使河原さんとなぜか宮水神社近くのバス停で大工さんのようなことをやっていた。初めは何ができるのか謎だったけど、今週になってそれがテーブルと椅子であることが分かってきた。つい先日それが完成したようで、勅使河原さん、名取さんと放課後にそのテーブルを囲んで座り、缶ジュースを飲みながら楽しそうに談笑する三葉さんを見たことがある。

”私もあの中に混ざりたいなぁ。”

と思いながら遠くから眺めていた。

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私たちは放課後すぐに学校を出て門入橋の直前にある農家の納屋の陰に身をひそめた。そして予想していた通りすぐに三葉さんが勅使河原さんと名取さんを連れて姿を現した。息をのんで3人が私たちのわきをすり抜けていくのを待つ。

やがて3人が橋に差し掛かったところで、 「行くよっ!」
千歳が私の背中を押してくれた。私は駆け出す。
「宮水センパイッ!」

あれ、聞こえてないかな?もう一度。
「宮水センパーァイッ!」

今度は勅使河原さんが、
「三葉ぁ、なんかお前呼んどるぞ。」
と気づいてくれた。

「えっ?ああ、そうか。」
三葉さんが橋の真ん中あたりまで進んだところようやく振り向いてくれた。

私は精一杯の勇気をふり絞った。
「てっ、手紙読んでください!」

「えっ?私に…? 俺じゃなくて?」
日本語として変な反応だ。意味が分からない。でもこんなのは間違い探しバージョンならなんでもありなので、私たちもひるんでいてはいけない。精一杯の笑顔を続ける。

「ええっと、誰だっけ?」
”ええっ?私の名前忘れちゃったの?”少しショックを受けたけど、オンの三葉さんは自分の名前を忘れていたこともあったようなので、何か記憶障害みたいなこともあるのかもしれない。私は笑顔のまんま、

「瑞穂ですっ!」
そして、
「千歳ですっ!」
「皐月ですっ!」

最後に3人で声をそろえて、
「よろしくお願いしますっ。」

「ああ、みんなかわいいねぇ…。」
と言ってくれた三葉さんの鼻の下が少し伸びたような気がしたけど、うれしい!

「じゃあ失礼しますっ!」
私たちは”きゃ〜”といいながらその先の坂道を上がりきる。

息を切らしながら、皐月が、
「かっこよかったね〜。」
というので、私は
「いや、かわいいでしょ。」
と修正しておく。でも千歳が
「両方でよくない?」
と折衷案を出してくれたので、それでいいことにした。

その後興奮冷めやらぬ私たちは他愛もない話を3人でひたすら続けた。
皐月は手紙を渡した瞬間の名取さんの驚愕ぶりが印象的だったらしく、一通り勅使河原さんのリアクションにも触れて面白おかしく話した後、私たち二人に問いかけた。
「宮水さん、読んでくれるかな?」

「う…ん、多分ね。」

気が付いたら私は三葉さんがその手紙を読んでくれるかとか、今後親しくなれるかとかはどうでもよくなっていた。それは今まで人に言えなかった気持ちを本人に吐露することができた達成感によるものだったのだろう。

気が付けば、日が大きく傾いていた。秋になり日の入りがみるみる早くなる季節。

「もうカタワレ時やなぁ。」
誰ともなくそういった。皐月が、
「うちのお姉ちゃんに聞いたんやけど、カタワレ時ってあの世にいる人に会えるかもしれんって古典のユキちゃん先生がいっとったって。昔の人って変なこと考えたもんやに。」
といった。

私はなぜかそのとき三葉さんでなく、二葉さんのことを思い出していた。もし今二葉さんに会えたなら、二葉さんにもラブレターを渡せたならどれだけ幸せだろうかと。

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 第二章 了

 

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