須賀神社の階段とか

聖地巡礼という言葉を特に有名にした本作ですが,私も例に漏れず東京側の聖地はほとんど廻りました.写真を撮りたかった須賀神社の階段はできるだけ朝早くいって,他の巡礼者の方に会わないようにしていったのですが,流石に他に一人おられましたね.その後廻った他の多くのポイントでは人が多くって明らかに聖地巡礼と周りから見てもわかってしまい,ちょっと恥ずかしかったのと,結構いっぱい人が映ってしまうのとで,ほとんど写真は撮れていません.ということで今回はその須賀神社の階段とかその周辺について少し.

須賀神社の階段は実際行ってみるとわかるのですが,キービジュアルやポスター用のシーンをイメージしていくと,結構違和感を感じます.ポスターなどでは階段の下の傾斜が実際の地形とは違ったり,背景の建物がより東京らしく見えるものに差し替えられていたりするからです.逆に,エンディングをイメージしていくと実際はそう違和感はありません.映画のエンディングでは三葉の胸から上が見える角度から,青空に向かってパンアップしていきます.その最後のシーンの初めに描かれている三葉の後ろの背景はちゃんと谷のように描かれており,その後ろのビルも地面の傾斜に合わせ比較的高い位置まであるような感じで画面が空に向けてパンアップしていきます.そこで最後のあのセリフどーんって感じになるわけです.

地形もそうですが,光の具合も大きく実際とは異なると思います.須賀神社の階段の下は谷のような形になっており,この階段がその谷の南側の縁に該当するため,いわゆる北側斜面になります.私が行った朝早くだと晴れた日であったにもかかわらず一切日光があたらず,かなり薄暗い印象でした.実際日中であっても階段の降りる側を向いていると顔には日が当たらないはずなので,瀧くんが見上げたシーンのような明るさは春の季節であっても朝方ではああはなりません.ここはアニメならではの好きな方向から日光が照らせる点を最大限利用しているのかと思います.このような表現上の工夫は新海監督もインタビューでお話しされていて,逆にそれが実感できるという点で聖地巡りの価値があったかななんて思われます.

では,エンディングでなくキービジュアル,ポスターなどで使われているこの階段の背景についても考えていきましょう.まず,階段を下がりきって1本目交差点の向こうの消火栓の標示柱の先の傾斜が実際や,エンディングシーンとは違うことがわかります.実際は登り傾斜なのがポスターなどではほぼ平坦に描かれています.したがってポスターが背景の開放感を重視して,いかにもポスターなどビジュアルのインパクトを重視してモディファイされているかがわかります.まあ実際の地理を知ったうえで見おると,見た感じ南向きの階段のように描かれているわりに,背景の六本木ヒルズや東京タワーが実際の配置とは逆の位置関係になっています.そう考えると,あの背景の位置関係から推測して須賀神社は目黒か五反田ぐらいの位置でないといけないことになりますね.ははは.

で,何が言いたいかというといろいろな位置関係とかは聖地の再現度よりもやはり脚本,今回の場合は新海監督の描いた絵コンテなどを重視して選ばれていて,そこらへんいろいろと工夫されているんだなということが言いたいわけです.

聖地とは関係ありませんが,創作部分でもこういった工夫が見られるのが糸守湖,新糸守湖の配置とかにも表れています.映画パンフによると初期コンテでは宮水神社があるのは糸守湖の北側.宮水家もそのそばであり,サヤちんやテッシーのうちの方向に行ってそのさらに奥のさらに北東の方角がご神体のある外輪山の方向ということになっています.この位置関係は映像化するにあったって初期コンテから変えられたようで,瀧くんが地図に書き込んだご神体の大体の位置というのは湖から見て北西方面にあるようになっています.

実際外輪山の上からみたシーンでは新糸守湖が左下,糸守湖が右上に描かれており,その位置関係は問題ありません.しかし,この外輪山の縁の位置関係で行くと,二人がいたのは外輪山の南東側にいたことになります.なのにカタワレ時の日没は二人が向かい合った外輪山の直径方向外側です.すなわち地理的,季節的にいけば,二人は外輪山のほぼ西南西にいなければいけなくなります.

製作のプロセスを考慮してみると,カタワレ時の描写は新海さんの初期コンテとは矛盾しませんので,おそらく地図や外輪山から見た湖の描写がそこから変えられたことで,整合が取れなくなったのかも知れません.でもそこをあえて二人の間にまっすぐカタワレ時の太陽が沈まないといけないと,こだわってあの映像ができたと考えれば,逆に小細工をしなかった新海さんとスタッフの英断を褒め称えたいような気がします.

加えてアニメでもCGを使った映画でも,よくブルーレイ化のときにこのような不整合を是正するような修正が加えられたりしますが,本作においてはやはり映像美を優先させたまんまの状態でブルーレイ化していただきたいと切に願います.他のアニメで色を少し変えたりして大問題になったことがありましたからね.

こうして考えると,新海さんの作品は背景を単なるキャラクターを浮き上がらせる相対的な品質にしてしまうことなく,画面の重要な要素として活用していると感じます.なので,特に本作の場合は聖地巡りをしたり,複数回見て映像からその工夫を感じることで,様々な工夫に気づくことが出来たりするというのも,この作品ならではなのかもしれません. 実写では味わえない,アニメだからこそできる隠れた楽しみ方をさせてくれるのが新海さんの作品の良いところなんでしょうね.

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