瀧くんの6年に対し9年待ち続けた三葉の気持ち

三葉と瀧くんが再会できたのはいつかというのは映画の中でも小説の中でも明言されてはいません.ただ,就活中の瀧くんと奥寺先輩の会話で彗星被害から8年となっていますので,あの後就職してすぐに三葉と会えたとすれば彗星後8年半ぐらいで再会できたということになります.でももしかしたらもう1年経っている可能性もあるので,ここでは彗星被害から9年経って再会したと仮定しておきます.

この会えない期間の部分,瀧くんのほうは多少自分の気持ちを客観的にとらえています.彗星の件に3年後になぜだか興味を持っていたこと,記憶に欠落があるのではないかとかかなり具体的に自分を分析しているのに対し,一方の三葉は彗星の件では当事者でありなおかつ被災者であったこともあり,その時に掌に書かれていた言葉のみが記憶に残り,なぜそんな気持ちになるのかあんまり理屈がわからないまま9年を過ごしているわけです.これは言の葉や秒速のほうでも言えることですが,男よりも女サイドにこのような重い十字架を背負わせるというのが新海さんの作品のセオリーなのかもしれません.

というのも過去の新海作品で行くと,ほしのこえの時はミカコ側には時間の経過はほとんどなかったものの,自分が8.6年もの時間を経てしか連絡できない距離に来てしまったということを悩み,悲しみながら過ごします.ノボルについては連絡の途切れた8.6年間を過ごすのみで,その中でストレスを感じながらミカコのことを忘れられずにはいるといった感じでしょうか.ちなみに瀧くんが就職してすぐに三葉に会えたとした場合の8年半と,ほしのこえのノボルがメールを待ち続けた8.6年がほぼ同じなのは新海さんが意図的に設定したのかなと思います.同じく秒速の時にはどちらかというと貴樹サイドにこのような精神的な負担を持たせてそれを描いており,逆に明里側はほとんど描かれていませんでした.(コミックのほうは少し多めにありましたが)

言の葉のほうはやはり雪野先生の心的なダメージというのが元にあって,そこから抜けられるようなきっかけを一旦は秋月君がせっかく作るのにそれが季節の問題で一時途切れる.そこで自分の気持ちに気づいてしまったのに簡単には素直になれなかったという心の動きが表されています.こちらについては雪野先生が苦労人であるほかは二人をほぼ同等の重さで登場させているところが秒速とはことなります.時期についてもそのような不安定な状態で二人が距離を置いている期間はせいぜい2か月ぐらいで,あまり長くはありません.むしろエンディングの後のほうが長いのですが,そちらは小説を見る限りあまりお互いに悩みやストレスはないように見えます.

本作ではほぼ二人の登場シーンは彗星以前はほぼ同等に扱いながらも,彗星の後の部分は比較的瀧くんサイドの視点で話が構成されています.この期間もその陰で三葉も同じような感覚を抱いているはずなのですがあまり登場しません.これは三葉が無事であり,瀧くんのそばにいるということをストーリー上直前まで隠しておく必要があったからに他ありません.ですから三葉も手のひらにあの言葉を書いてくれた”誰ともわからない人とともう一度会わなければいけない”という気持ちを抱きつつ,彗星被害後の様々な苦難も含め,瀧くん以上の9年を過ごしたことになります.映画のストーリーとしては瀧くんの6年を描きつつ,その陰にある三葉の9年の重さを感じさせるように構成されているこの部分,うまいなと思います.

そして3年分長い年月に耐えた後,再び瀧くんと巡り合えた三葉.階段で振り返った三葉の涙を見る限り,もしかしたら三葉はもう限界だったのかも知れないとか思ってしまいます.既にあの時の雪野先生の”人間なんて〜おかしいんだから”のような精神状態になってしまっていたかもしれないと想像してしまうのです.

確かに9年といっても私の年齢ぐらいになると9年ってそう長くは感じません.正直とっても短く感じてしまっていて、10年スパンで考えていても、”もう10年経っちゃったの?”って感じです.でも私にとって17歳から26歳までの9年間を思い返すと,それはその当時も今考えても想像を絶するほど長く感じます.私の人生にあてはめますと、その期間の変化は,高校2年生だったところから大学に入り 卒業し、会社に入り、結婚し子供が生まれた年までということになりますので,その前後でそれはもう全然人生ががらっと変わってしまってます.そのように自分に置き換えて考えると,三葉の高校生からの9年が相当な重みであると感じられるわけです.

そんなわけで,瀧くんは6年,三葉は9年という時を耐えてようやく再び巡り合ったということですが,三葉のほうが時間が長い分会えた後の思い入れも強かったりすると,アフターストーリーを妄想するときなんかもおもしろいのかななんて思うわけです.まあヤンデレ気味にまでしちゃうとちょっと三葉がかわいそうかなとも思いますが.

KEN-Z's WEBのトップへ NEXT