入れ替わり初日について

本作において二人とも入れ替わり初日の描写はかなり端折られています.今回はその理由と,その時にいったい何があったかを推測していこうと思います.

<なぜ入れ替わり初日の描写が端折られているか>

実際初日の描写については瀧in三葉の朝の絶叫までで,一方の三葉in瀧に至っては一切描写されていません.私も1回目映画館で見たときはそれに気づかないほどスムースに三葉in瀧の当惑ぶりに十二分なエンターテインメントを感じることができたわけですが,それは実は入れ替わり初日ではなかったのです.もし入れ替わりの初日を時間をかけて映像化したならばもっと面白いシーンが描けたはずです.しかし実際の本作はそれとは明らかに異なります.なのでなぜもっとエンターテインメント性を深める効力のある二人の入れ替わり初日を描写しなかったのかということが引っ掛かっていたわけなんです.

私なりにその理由について考えてみたんですが,何度もブルーレイで時系列とかを逆追いしながらとかしながら見ることでようやく理解することができました.それはこの作品が単なる入れ替わりコメディで終わらないような工夫によるものだと私は考えるのです.確かにこの作品は

・第一章:入れ替わりのハチャメチャ
・第二章:入れ替わり後の現実直視
・第三章:未来を変える”美しくもがく”ステージ

で構成されています.となると入れ替わりは本作においてほんの導入部分でしかないわけです.観客に本作が単なるジェンダー入れ替わり映画といった目で見られることを拒否したが故に入れ替わり初日の印象深い描写をあえて避けたのだと思うのです.

<瀧in三葉の初日について>

瀧in三葉の初日は絶叫するまでは描写していますが,それ以降はストンと描写がなくなっています.ここんところ小説なんかでも描写はなく,ある意味徹底した情報操作がされているような気持になります.で,その絶叫以降何があったかを想像してみることにします.

まず,絶叫したら何が起こるかを考えてみました.これはかなりな高確率で四葉が部屋に飛んでくるのではないかとおもいます.

”お姉ちゃ〜ん,今度はなんなんやさぁ?”

といった感じでしょうか?そして,次にやったやり取りはおそらくですが,朝食の当番のやり取りではないかと想像します.要はその日当番は三葉であったにも関わらずなかなか起きてこなかった.その上日ごろの姉とは思えない変な挙動,当番を完全無視して仕方なく四葉がその日担当せざるを得なかった.

そうであるがゆえに翌日の朝,四葉は三葉が当番をすっぽかした点を必要以上に怒っているのではないかと思います.前日も当日もすっぽかしたうえで,”明日は私が…”というところ,もう四葉はいっこも信用していないような感じです.それはいつものちゃんとした姉の姿からの落差に驚きながらも少し楽しんでいるようにも感じ取れます.

そして次に瀧in三葉は一葉おばあちゃんに言われたからか,とにかく学校に行きます.当然この日は遅刻していったのだと思います.髪の毛はくくらずボサボサのまんまで三葉が遅れて教室に現れた姿はクラス中が驚愕したに違いないです.もしかしたらテッシーは三葉を指さして”か,か,髪がぁ!”と例のあの感じで絶叫したのかもしれません.さやちんの驚き様も想像するに相当なものであったでしょう.なのでさやちんは異常をいち早く察知してせめてということでゴム紐かシュシュを使って佐々木小次郎バージョンにしてなんとか体裁を繕わせたりするわけです.しかもサヤちんにとってはその後ブラをしていないとか,不機嫌そうに前髪をくるくるやるとか普段の三葉からは全く想像できない現象を目の当たりにします.

なので次の日の昼休みには三葉が疲れているからそうなったということでねぎらうような言葉をかけたりするわけです.そんなサヤちんの尽力もありなんとかその日の学校はクリアできたわけですが,うちに帰った後は瀧in三葉は神社に行ったり糸守湖を眺めたり,可能な限り情報を集めようとします.時には四葉やおばあちゃんにいろいろ聞いたりしながら.

そんな入れ替わり初日を過ごし,夜になってこれは夢だと確信しながら眠りにつく.そんな姿を想像しています.

<三葉in瀧の初日について>

今度は三葉in瀧の初日についてです.これは全く作中に直接の描写がなく,瀧in三葉のように四葉やサヤちん,テッシーなど状況を証言してくれる人もおらず当初想像さえもできなかったのですが,ブルーレイを見れるようになって,その断片的なヒントが作中に隠されていることがいろいろとわかってきました.

遅刻でも学校はちゃんと行けよ

という瀧くんのお父さんの玄関を出ながらの言葉がそれです.まず,この言葉を発するということは少なくとも一度は瀧くんが学校をさぼったということが言えます.なので今日もその日と同じような瀧くんの様子を見て,無意識で学校はちゃんといくように言ったのだと思います.確かに片親の家庭環境とはいえ学校を無断欠席してしまう息子に対して,少しでも何か言ってやらないとという親心がこのセリフに隠されていると同時に,前回の入れ替わりでは三葉in瀧は学校に行かなかったということを表しているのだと思うのです.

そして,もう一つは司くんからのLINEです.お父さん以外に瀧くんを心配している人が将にこの司くんなのです.前回の三葉in瀧が学校を無断欠席したことを気に留めていた司くんは,朝クラスに瀧くんがいないのを敏感に感じ取って,その結果として呼び出しのLINEを打ったのだと想像しています.それは瀧くんがひょんなことから不登校なんてことになっては寂しいという気持ちがあったのかもしれません.確かに親友と思っていた人が自分以外の外的要因で自分から離れていくようなことが司くんには許せなかったのかもしれません.なのであえて2回目を防止するために機転を利かせたというのがあのLINEの理由なのではないだろうかと空想してしまうのです.

で,初日の三葉in瀧は何をしていたのか?ということが次なる疑問になります.で,この日三葉in瀧は家から一歩も出ずに過ごしたことが明白です.それは2回目の入れ替わりでお父さんに続いて部屋を立たときのあの景色に対する感動具合が表してくれています.要は初回は一度も家から出なかったがために2回目のあの瞬間にはじめて目にすることができた景色にあれほどの感動を得ることができたわけなのです.

では,三葉in瀧はその家の中でいったい何をしていたのか?ですが,勘のいい三葉のことですから,初めから”これは夢だ”と割り切って,まずは男子高校生の部屋を興味津々でいろいろ探りまくっていたんだと思います.特に壁に貼ってある建築物のデッサン画であるとか,部屋に散在しているお城のプラモであったりとか,普段目にすることのないものをひたすら楽しみながら目を通していたのではないかと思うわけです.

で,この日の三葉in瀧はトイレでよっぽど苦労したんでしょう.2回目の入れ替わりでは”トイレに行く=何かしらの困難がある”ということを肌で覚えていたようで,もよおしたことだけでいやな思いでを思い起こしたような表情になってしまっています.なのであの時点で三葉in瀧はすでに経験済であったということになるでしょう.

そして晩御飯ですがお父さんが帰宅したときには,三葉in瀧はすでに料理を用意していたと思います.それは日ごろの瀧くんからは想像できないほどの田舎料理であり,それをある意味お父さんがうまそうに食べている姿を想像してしまいます.お父さんとしては瀧くんが美味しい料理を作ってくれたので,特に学校に行かなかったことについてはほぼ不問にして,ちょっとした息子の変化を気に留めつつも,直球勝負をあえて避けてなんとかうまくこなしていこうとしていたのかもしれません.そんな感じで三葉in瀧はトイレの苦難もあったことからお風呂に入ることなくベッドに入ったのではないかと思います.

<1回目の記憶について>

三葉については1回目の記憶を”別の人の人生の夢?”と曖昧ながら解釈しています.で,その別の人になっていた記憶というのはかなりこの時点でも薄まっています.確かに夢の中で起こったことであれば現実の記憶よりも希釈される速度が速く,次に入れ替わったときに前回の記憶を思い起こすことは極めて困難であると思います.それは私が自分自身の夢においても繰り返し同じような場面,立場の夢を見ることがあり,前回の記憶自体,その夢の中にいるときは思い起こせないという点とほぼ合致します.実際同じ夢を見てしまったな?というのは私の経験からして3回目以降であったりしますので,こういった点からも1回目の記憶というのが極めてあいまいというのは私的には合点が十分得られるわけなのです.

なので,瀧in三葉についても2回目でも同じような驚きを感じたでしょうし,それに慣れるまでに時間はかかったと思います.スマフォにメモを取り出したのも3回目以降とかだったりすると私の持っている感覚に近いわけなので,ぜひそうあってほしいとか思ってしまうわけなのです.

というわけで,1回目の入れ替わりをほとんど描写しなかった理由や,その時に何があったはずという点も妄想を掻き立てるに十分なフラグがいっぱいあったりして,ブルーレイで繰り返し好きなシーンが見れるようになって改めて本作の作りこみの妙を感じてやまない私なのでした.

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