No.10- ブレーキ(その2:ピストン揉み出し作業)

さて,ブレーキの第二弾です.大事なところですのでトピック1つ1つが長文になってしまいがちですが,できるだけ要点はしっかり押さえていったり,あんまり紹介されていない独自のやり方なんかもご紹介していますのでご容赦の上,自己責任で作業できる方はお付き合いください.

<ピストンの揉み出し>

バイクの車体の取り回しでタイヤの空気圧やホイールベアリング,チェーンに問題がなければ,ブレーキの甘ガミを疑いましょう.まあホイールを浮かして手で回してみれば簡単にわかりますので,大体私の場合フロントは軽く回して10回転,リアはノンシールチェーンでちゃんと調整して注油した状態で回して3回転以上回らない場合はブレーキの甘ガミということで,判断しています.まあ,ここらへんは車体によって多少まちまちだったりしますが,ユーザー車検のブレーキ検査で引っかかるレベルと明確に区別できるぐらいの軽さということだとこの程度になります.

で,中古のブレーキキャリパーを流用して車体を組むと大体エア抜きして制動力が出たところでこの甘ガミが判明しますので,その場合はキャリパーピストンの揉み出しをまずやってみます.ここで片押し1ポッド以外の両押し2ポッッド,片押し2ポッド以上のピストン数のキャリパーは特定のピストンだけ硬かったりしますので,その重さの差異から,モミダシの成果を推し量ることができます.なお,ピストンの揉み出しは絶対に押し込みから始めてはいけません.これはピストン側面についている堆積物,腐食層などがダストシール,オイルシールを超えて摺動することで,シール類を破損させてしまう可能性があるからです.なので,まず一番初めにやるのはピストンをギリギリまで前に出してゴム製の手袋を使って手で力を入れたら回せる程度にしたところでピストンの側面についた錆,汚れ,腐食層をとにかく清掃して可能な限り除去します.ここでピストン先端側のダストシールにかかるような部分に異物が除去された後の凹みがあったり表面処理層に荒れがあったらピストンは交換した方がいいです.で,この作業のときにピストンを前に出しすぎてしまうと,ピストンが外れてフルードがバシャッと漏れてきて台無しになってしまいますので,要注意です.

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で,私の場合モミダシのときにはちゃんとフルードが入っていてエア抜きがそれなりにできている状態にしておき,ピストンを出すときはレバーやペダルを操作して出し,戻すときは廃ブレーキパッドを厚みや場所を変えてかまして出したいパッドのみが動くようにして出します.このとき,汚れたまんま急に動作させるとダストシールを引き釣り出してしまう可能性がありますので,ピストンを動かす前にキャリパーの内部やピストンの界面を可能な限りブレーキクリーナーで清掃しておき,レバーやペダルの動作はあくまでもゆっくりがよいと思います.戻すときはピストンの先端にまた厚みを合わせて廃ブレーキパッドを挟み,少しずつこじって戻します.この時ピストンができるだけ斜めにならないよう少しずつ廃パッドをこじったり,廃パッド2枚の間に金属へらを入れて広げたりしていきます.時間はかかりますが,まあこの手間をかけるとどの程度軽くなったかがわかりやすくって,あえて手間がかかるやり方をしている感じでもあります.

なお,このピストンを戻すのを一気にやらない理由がもう一つありまして,それはフルードの噴きこぼれなのです.ピストンを勢いよく戻しますとフルードがホースを通じてマスターカップまで戻り,そこで吹きこぼれることがよくあるのです.なのでこのような煩雑な作業の中でも常にマスターのリザーバータンクのフルード量を常に気にしながら,逆流速度を一定以下に抑えるよう気を付けて作業をしています.中古の車体やハンドル周り,スクリーンなどを購入したときになんか落ちない白いくすみやシミのようなものがついていることがありますが,これらは十中八九このフルードの噴きこぼれで付着したものを放置して痕跡が残ってしまったものです.

で,これだけやってもピストンの動きがまだ渋い場合があります.その場合はダストシールとの間で抵抗が高くなっているケースが多く,残念ながら一旦ピストンを抜いてしまう必要があります.私の経験からいくと,キャリパーボディ側のダストシールの溝に水分が入り込み,腐食し,そのせいで溝からダストシールが浮き摺動抵抗が高くなっているケースが多くて,複数ポッドのキャリパーで1か所でも摺動抵抗が緩和できない場合はすべてのピストンでこのダストシールとダストシール溝の清掃をする必要があると思います.なお,ピストンを抜くときは両押しは両側いっぺんにはできませんが,両押し,片押しのいずれも片側のすべてのピストンを前ギリギリまで出しておいて,手でピストンを抜けばいっぺんに外すことができて効率的です.よくピストンを抜くのであればキャリパーを総分解する方がいますが,私の場合 そこまでしてやったことはありません.

ピストンを抜いて,ダストシールを取り出して変形や摩耗がひどい場合は交換となります.私の場合は変形が許容であれば使いまわしてしまいますが,ここらへんはせっかくばらすなら交換してしまうのもよいでしょう.溝についてはつまようじとパーツクリーナーを駆使して可能な限り異物を除去します.異物を除去しても腐食層の凹凸がひどい場合はキャリパーボディは再使用をあきらめた方がよいでしょう.今まで私がやった中ではそこまでのものはありませんでしたが.

ちなみにオイルシールの方についてですが,目視と手で触ってみて破損や変形が見られない場合はそのまんまにしています.むしろいったん取り出してしまうと再利用してオイル漏れなどになるかもしれないので,難がなさそうであれば触らないでオイルシール表面やキャリパーの内部を清掃したらダストシールをはめ,シール類にフルードを塗布してピストンを戻します.戻すときは少し力は必要ですが,清掃など作業がうまくいったときは比較的楽に指でピストンが押し込めたりします.もちろん斜めに押し込んでしまうと全然ですのでその点注意は必要です.

で,両押しの場合はこれで甘ガミはなくなるはずなのですが,片押しの場合はこれだけでは甘ガミが解決しないことがあります.それはキャリパー本体とキャリパーの保持板やパッドとの摺動不良が原因です.片押しキャリパーの保持板は片側にキャリパー本体との摺動,もう一方にはパッドとの摺動のためにピンが立っています.このピンとキャリパー側の穴の間は通常グリスが入っているのですが,ゴムブーツが緩くなってくるとここに異物が入り,摺動が渋くなっていることがあります.ですのでもともとついていたグリスや異物を除去して,ピンや穴についても清掃し,凹凸がないのを確認した上で新たなグリスを満たし,組み立てます.またパッドのスライドピンについては大概古い車体の場合さびてしまっているので,錆を落とし,摺動不良の原因になるような傷などがないか確認の上適度にグリスを塗ってパッドに通す必要があります.またパッド側の角穴も私が常用している中華製の安価なものはプレス機で抜いただけの荒い内面になっているので,細目やダイヤモンドやすりでやすってやったり必要によっては多少面取りして摺動抵抗を軽くする必要があります.まあ削りすぎてガバガバにしてしまうとよくないので,少しずつ仮付けをしながらということになりますが.

簡潔に書いて言ったつもりですが,キャリパーピストンの揉み出しだけでこんな量になってしまいました.ちょっと反省.まだブレーキ関係ではご紹介したいトピックが目白押しですので,続きは次回. 

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