No.10- ブレーキ(その3:ブレーキパッド交換作業)

最近では社外のブレーキパッドが安価に購入できたりするので,ご自分でブレーキパッド交換をやりたいという方も増えてきていると思います.しかし,ここで手順を守らなかったり,作業忘れなんかがあると大変な事故にもつながりかねないので,いかに安価なブレーキパッドであっても慎重に作業をする必要があります.正直私もブレーキパッド交換を昔から自分でやっていますが,初期の作業内容を思い返すと,反省すべき点が結構あったりして,少し自責の気持ちも感じながらご紹介します.

<ブレーキパッドの交換作業>

まず,いかに安いパッドであっても確認しておきたいのが,その品質です.まずパッケージを開けて第一に私は

・ベース金属とパッド材が浮いたりしていないか?
・パッド材に欠けがないか?
・ベース金属が反っていないか?

などを目視で確認します.まあ,そこまでひどいものは未だ見たことはありませんが,中古のパッドで少しパッド材が浮いてきているものなど見てきていますので,新品でそのような兆候がないかどうかぐらいは確認しておくようにしているのです.

次に行うのはピストンの清掃です.前回の揉み出しのときにも述べましたが,まずピストンを前に出してピストン側面の異物,汚れ,腐食層を落とします.同じくここでピストン側面にダストシールにかかるようなところに凹凸が残ってしまった場合はピストン交換となります.私がバイク作業をやり始めた初期にはこの作業が抜けていまして,このピストン清掃をせずにパッド交換だけをやってしまいまして,ピストン側面の異物をダストシール,オイルシールを擦って,最悪キャリパー内部に入り込ませてしまっていた可能性がありました.事実,中古のキャリパーを分解してみるとそのような作業をしてキャリパー内部に多量の異物が入り込んでしまっていたり,ダストシールが無理やり異物で刷られて傷ついてしまっている例などを多く見てきました.このような状態ではピストンの摺動抵抗も高く,キャリパーの甘ガミが起きたり,最悪フルード漏れなどの危険もありますので,パッド交換前に必ずピストン側面の清掃を行いましょう.そしてピストンの摺動抵抗が高かったり複数ポッドのキャリパーでピストンごとにアンバランスを感じたらダストシール,オイルシールの交換をしましょう.(詳細は前ページの揉み出しをご覧ください)

新品のパッドをキャリパーにセットするためには,ピストンを最後端まで押し込まなければいけませんので,フルードが漏れてこないよう注意し,必要に応じキャリパーのブリードバルブから排出しておきレベル調整しましょう.ちなみにブリードバルブは結構強く締めこまれているケースが多く,古い車体では腐食やごみなどでブリードバルブを緩める時破損させてしまうこともあります.ブリードバルブが折れてしまうと折れた部分の除去はかなり困難で,キャリパー本体を交換せざるを得なくなります.それもピストンなどのパーツが取り出せなくなるケースがほとんどですので,まるまるキャリパーを購入しなおすことになり精神的ダメージも大です.緩める前に可能な限り清掃し,曲げ荷重がかかりにくいメガネレンチをかけて,ブリードバルブに支点として手をかけて支えつつ,過度な力がかからないように緩めていきましょう.それでもゆるまないブリードバルブもあるかもしれませんが.

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これは安価な中華製パッドあるあるですが,片押しキャリパーの場合パッド側のスライドピンの通る穴の出来上がり精度が悪く,ピッチが合わなかったり,穴を通らなかったりしますし,穴の側面も荒れていることがありますので,実際キャリパー保持板側のピンを通してみながら,ダイヤモンドヤスリなどで削って調整するとよいでしょう.保安部品なので,ここは確実に使えるレベルに仕上げる必要がありますが,ここらへんは自分のスキルを信じてやれる人は削ってガタが許容レベルに仕上げられたら慎重に試運転などして評価しながら使ってください.なお自信の無い方は絶対にやらない方がいいです.

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ブレーキ鳴きを抑えるためか,パッドに面取りする人がいるようですが,私は新品の パッドにライニングがまだ厚いからといって大きめに面取りを入れるのはお勧めしません.大きな面取りを入れるとブレーキディスクとの接触面積も減りますし,その分パッドが斜めにかしぎやすくなり,偏摩耗しやすくなります.なので面取りは大体1mmまでとして,こまめにパッドをはじめキャリパー周りを清掃して,その都度減り具合に合わせて面取りを入れなおした方がよいと思います.ちなみに私はあまりブレーキ鳴きを経験していないので面取り入れない派です.

新品のパッドとはいえ,作業の最中に油分がパッド表面についてしまったりしては台無しですので,このような面取り作業や取り付け作業のときは可能な限りパッド表面に触れないようにして,油分も飛び散ったりしないよう注意しましょう.もし付着したときはブレーキクリーナーを吹き付けて,きれいなウェスで表面をふき取りましょう.

両押しキャリパーの場合,ブレーキパッドはパッドピンで固定されていますが,このパッドピンがさびているとパッドが自由に位置を変えられず,偏摩耗したり甘ガミ,固着の原因となります.パッドピンの錆を除去して表面の状態を見て,パッドの摺動に影響しそうな凹凸がある場合はこのパッドピンも新品にしておいたほうがよいでしょう.

パッドを交換してキャリパーを車体に取り付けたら,レバーやペダルを動作させ,パッドを前に出します.このとき,動作のストロークはできるだけ少なめにして,こまめにピストンを前進させた方がよいです.特に片押しの場合,急激にピストンが前に出ることによって,パッドのスライドシャフトとの間で正しい位置まで摺動しないまま斜めにパッドが当たって,そこから抜け出せなくなってしまい甘ガミ状態になりかねません.両押しであってもアンバランスにピストンが出てしまい,片当たりしてしまう可能性が高くなります.できるだけ両側のピストンが同じ圧力でですので,こまめにゆっくりパッドをディスクにあてていくほうがよいです.

また,この際にブレーキマスターのリザーバタンクのフルードの量にも注意して,フルードを切らせないようにしましょう.フルードにエア噛みしてエア抜きをやり直す羽目になってしまいますので,ちなみに入れすぎてしまうとまたブリードバルブから抜くか,スポイトのようなもので抜く必要がありますので,都度確認するのを面倒がって入れすぎるのもよろしくないかと思います.

パッドがしっかりディスクにあたって,車体をとりまわしてみて制動力が出ているのを確認したら,実走となりますが,新品のパッドはまだディスクの凹凸との間に隙間があります.特に摩耗限界に近いディスクでは,端っこしか当たっていない期間が長いので,交換前と同等の制動力が出るまでそれなりの制動回数をこなさないといけません.長い距離を制動せずに走っているとつい制動力が劣っているという認識を忘れてしまい,事故になるケースもあるようですので,ブレーキパッド交換後はいきなり長距離をノンストップで走るのではなく,比較的制動頻度が多い環境であたりを出した方がよいでしょう.それも絶対にスピードを欲張ることなく,とにかく安全運転に徹するようにしましょう.十分な制動力が出るまでの我慢ということで,めいっぱい走り回れることを夢見ながら,ひたすら制動力の変化に神経を研ぎ澄ましましょう.

交換作業といいつつ作業そのものよりその段階段階におけるご注意を軸にご紹介してきました.まあ,本来はキャリパーのタイプごとに交換作業なんかを紹介できれば多くの人に役立つんでしょうけど,それだとサービスマニュアルの内容と変わりませんので,このwebではこんな感じになります.でもまだまだブレーキ関係は続くのであります. 

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