No.10- ブレーキ(その5:マスターシリンダの保守,修理:後編)

ブレーキといいつつキャリパー側ばっかりやってきたので,そろそろマスターシリンダーやレバーについてやっていきましょう.

<リザーバーカップの清掃>

まず長期放置車や長期在庫であったマスターシリンダのリザーバ―カップの中は

・フルードが劣化している
・フルードが中途半端に残って腐食している
・フルードがゲル化している
・フルードが乾燥して粉になっている
・マスタシリンダへつながる穴が腐食物などで閉塞している
・ダイヤフラムゴムが変質したりして破れている

などの状況が見られます.まあどうやって清掃するかということですが,残ったフルードを使いまわしたりしない限りは,まずハンドルから外してウェスなどでふき取り,パーツクリーナーを掛けてまたふき取り,天地逆にしたりしながらエアで異物を飛ばすといった感じでしょうか?まあホースを外すとクラッシュワッシャがもったいないという人がいるかもですが,まあ安いもんなのでそこらへんはちゃんと交換する前提でホースを外して清掃しきったほうが良いです.で,ここで大事なのはマスタシリンダにつながる穴を出る側の大きい方と戻る側の小さい穴ともちゃんと貫通させるということです.特に小さい穴のほうはこれをちゃんとやっておかないと,マスターシリンダ内に問題がなくても正常に機能しませんし,まずエア抜きができなかったりしますので,閉塞している場合はピアノ線などでしっかり貫通させましょう.

なおリアマスターや別体式タンクの場合はタンクの取り外し自体は簡単ですが,マスターシリンダ本体にホースが接続されているところのCリングを外してホースのフランジを除去したらこの2つの穴が見えるようになりますが,結構このCリングを外すのが面倒だったり,フランジを外そうとしても固着して外せなかったりします.私は一回このフランジを無理に外そうとして破壊してしまったことがありますが,Cリングを外したあと,フランジの外側にOリングが入っているので,その界面にある腐食を取り除いて,パーツクリーナーなどを吹いてからから外すことで回避できるのを後になって理解しました.

<ブレーキマスターの固着の回避>

あまり成功確率は高くないのですが,ブレーキマスター,油圧クラッチマスターが固着してレバーやペダルが動きにくい状態になっている状況で,固着から回避するやり方がありますので,ご紹介しておきます.

(1)リザーバー内の異物は上記の手順でしっかり除去する
(2)フルードか潤滑油をシリンダ内にいきわたるように少量注ぐ
(3)できればピストンの後ろ側のブーツの内側も潤滑油を掛けておく
(4)ピストンが1mm動く程度にレバーやペダルを動かす
(5)マスターシリンダの側面をショックレスハンマーで何度かたたく
(6)もしピストンが戻ったのが確認できたら,(4)に戻り1mmストロークを増やす
(7)(4)-(6)をフルストローク動くまで何度か繰り返す
(8)十分にピストンの前後に潤滑剤を吹き,何度もストロークする
(9)全ストローク引っかかりがなくなったのを確認する
(10)フルードを入れエアぬきし,漏れがないかとブレーキ性能を確認する

あと,シリンダーに対してホースの取り付けがまっすぐ付いているマスターについては(5)以降はホースがついていたねじ穴から竹ひごを入れてピストンを押すか竹ひごを介してハンマーでたたくとピストンを戻すことができますので,さらに成功確率は上がります.横向きについている場合はこの方式は使えませんのでカップ一体式のフロントマスターやヤマハの古い車体のリアとかはダメなんですけどね.

まあこれらのご紹介した方式は固着の原因となった異物を除去しないままピストンを強制的に動かすので,シールのゴム材が破れたり傷が入ってしまう可能性もありますが,結論としては漏れがなくブレーキ機能に問題がなければ,ひとまずこれでしのぐ感じはOKではないかと思います.でも長期的に見て,あまり良い方法ではないのであくまでも応急処置として考えたほうが良いかもですが.

<フロントブレーキマスターの清掃>

上記の回避措置が空振りしたり,エア抜きしてみてもなかなかフルードがホースまで出ていかない場合などは,シリンダー内の清掃が必要です.なおマスターの分解フロントブレーキとクラッチマスターはほぼ同じ構造ですので,ここはほぼ油圧のクラッチマスターも含めてのお話になります.まずレバーを取り外すと,ブレーキの場合はピストンの後ろ側のロッドとブーツが見えます.古いものはこのゴムブーツが破れていますので中のグリスがなくなってしまっており,ピストンの固着の原因にもなっていたりします.クラッチマスターの場合は,リンクシャフトがあって,それを外すとその先にピストンが見えてきます.ブレーキとクラッチの差は操作回数と信頼性の違いによるものではないかと思いますが,ここらへんはブレーキの方がしっかりとグリス封入できるようになっていたりして堅牢性を考えた作りになっています.

ピストンのお尻が見えたら,その後ろ側のストロークエンドを決めているCリングを抜きます.このCリングは結構奥の方にあったりしますし,固着していたりするので抜くのが大変ですが,ちゃんと奥まで届くサークリッププライヤを使用して抜きましょう.Cリングが抜けたらピストンを取り出すことができますが,固着している場合はシリンダ内の腐食層を除去したり,ピストンのお尻に真鍮棒などを当てて,ハンマーでたたいたりして取り出します.このときにピストンのお尻を変形させない程度に叩くのがコツです.

ピストンが抜けてきたらシリンダ内やピストンの腐食を確認し,清掃して何とかなりそうだったらそのまま使います.ピストンのみ腐食が何ともならなかったらピストンはカワサキの90年代の車体のものであればデイトナなどで売っている交換部品を使用して入れ替えましょう.なおシリンダ内の腐食がもう回復できないレベルであればそのマスターシリンダーはあきらめたほうがよいでしょう.

なお,ピストンの側面にはねじのような溝が切って有り,レバーを戻したときなんかはここを通ってフルードが戻るために,フルードが逆戻りしない構造となっています.古いフルードがゲル状になってここの流路をふさいでいることがありますので,しっかりと溝もきれいに清掃しましょう.また,せっかくばらしたのであれば,ゴムブーツやピストンのスカート状のゴムシールはこの機に交換したほうが良いでしょう.これらも先述のデイトナの交換パーツセットに入っていたりするので便利です.

関連記事2:GPz1100空冷でブレーキマスターの分解清掃

<リアブレーキマスターの清掃>

リアブレーキマスターも構造はほぼフロントと同じですが,旧車の場合はピストンの手前で球Rのついた部品を介して,大きなストロークで動かしてもピストンをこじらないような工夫がされています.この球Rについてはそもそも下向きにゴムブーツが付いていて,地面に近い分水分が浸入しやすくグリスも枯渇しやすいので,結構な確率で錆びていたりします.ここが錆びたまんま使用していると,どんどんピストンのお尻の受けのR形状を削っていってしまいますので,この球R部品が錆びている場合は交換するか磨いて再使用するかということになります.旧車の場合,上述のフロントのような交換キットは売られていませんので,大概の場合リアブレーキマスターをなんとか使いまわしたい方は磨いて再使用することになろうかと思います.私の場合この磨きはワイヤブラシで大体錆が落ちたところでペーパーを使ってきれいにしていきます.まあ鏡面までは必要ありませんので240番ぐらいからはじめて800番ぐらいまでやるのが良いと思います.

関連記事2:GPz400Fでリアブレーキマスターの分解清掃(2部作)

マスターシリンダーだけで2回にわたり長々と書いてしまいましたね.まあ何度も書きますがブレーキは最重要の保安部品ですので,こんな私でも安全重視で無理強いはだめですよとだけは書いておかないといけませんね. 

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