No.7- シート張替え(作業編)

今回は作業編ということで,作業の上流からやっていきましょう.まずは外すものから.

<タンデムベルト>

実はシート張替えの第一関門はタンデムベルトがある場合はこれを外すのが大変だったりします.というのもこのタンデムベルトはもしタンデムの乗車者が思いっきり体重をかけ引っ張っても絶対ちぎれたり外れてはいけないものでして,シートへこれでもかというぐらい念入りに固定されているものです.その結果,ねじはデフォルトでかなり硬めに締めこまれていまして,しかもそのねじの先をカワサキ車だとネジ山をつぶして抜け止めにしていたり,他のメーカーでも先端に抜けにくいクリップが付けられたりします.まあクリップは外せばいいんですが,ねじ山をつぶしているケースはネジ山を削ってねじを摘出したりします.

で,それにも増して多いのが,その肝心のねじの頭がなめてしまうケースです.カワサキの私がよくやっている車体に多いのは大体タンデムベルトの金具の部分を鉄に黒ニッケルめっきがかかったトラスネジが使われているケースで,このトラスネジと金具が錆びで固着してしまっているところにドライバーを突っ込んであえなくねじのリセスがまん丸になってしまうことが多いのです.まあ,固着していなくてもねじが強めにねじ込まれているのと,ショックドライバーを使ってねじを回そうとしてもシート自体が剛性が低くて叩いた瞬間にバウンドするために,ショックドライバーのメリットが十分に発揮できないなど,様々な要因があったりするのですが.

そんな言い訳がましいお話はもうやめにしておいて,この頭をなめてしまったねじをどう摘出してタンデムベルトをシートから取り外すかというのが重要になってきます.これは通常のねじをなめたときの摘出方法と同じでして,ねじ頭を吹っ飛ばしてタンデムベルトを抜いて外して,残ったねじは頭を完全に飛ばしてから裏側からバイスクリップで挟んで回して抜くというやり方が私のセオリーです.

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ここでなめたねじ頭をバイスクリップで直接回さないのは,つかみ代がほどんどないトラスネジを無理やりバイスクリップで咥えることで金具に傷を付けたくないからでして,また裏側から残留したねじを抜くことで,あらかじめ潰されたネジ山をシート側のねじ穴に通して,そちらのねじまでおバカにしてしまわないための工夫であったりします.

<シート生地の除去>

タンデムベルトがなくなったら,シート生地を外すことになります.で,大体の場合元々のタッカーの針が錆びてしまっていて,なかなか簡単には針が抜けません.針については可能な限り綺麗に抜いてしまいたいところですが,腐食がひどい場合は抜くためのつかみ代もないことがあり,その場合はあきらめて放置することになります.まあ,裏側から見てつかみ代があるのが分かったらそれを利用して抜くのもアリですが,私の場合そこらへんはスルーです.

で,実はシート張替えにおいてこの作業が実は最も危険な作業であったりします.工具については前述の幅広で薄い先端のマイナスドライバーを針の腹に横から突っ込んで,てこの原理で浮き上がらせるのですが,この横から突っ込むときに,結構すき間がつかめず,スカッとなるのです.するとシート本体を抑えている指がその先にあったりすると血だらけの災害発生となるわけです.ですのでこの作業の際はドライバなど工具の行き先に絶対に手指を置かないことが重要です.

また,すべての針が抜けたと思ってシート生地を外しても残留している針があったりしますので,針が刺さっていた部分のシートベース樹脂を触るときは細心の注意が必要です.なお,この工程では結構シート生地の裏にあるごみや,針のさびなどが周辺に飛び散ります.くれぐれもリビングの床などで作業はしないようにしましょう.私はやってしまってますが.

<シートベースウレタンの乾燥>

シート生地が破れた状態で長期放置されていたり,湿気が高い季節はシートベースウレタンが水を含んでいるケースがあります.先々腐食してしまったり,せっかくタッカーで留めたのに針を錆びさせてシート生地が外れてきたりしますし,車重がその分重くなるのも勘弁してほしいところです.なので,シートベースウレタンがはずせたら2日以上天日干しして中の水分を可能な限り抜いておくことをお勧めします.

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<シートベースウレタンの補修>

同じくシート生地が破れた状態で長期放置されていると,中のウレタンが腐食でやられてしまっていたり,放置されている車体の近くで犬を飼っていたりすると,シートベースが食い荒らされてしまっていたりします.犬にとってウレタンがおいしく感じられるものなのか,果たしてストレス発散でそうなるものなのか定かではありませんが,あきらかに犬の歯の跡がついていたりしますので,そのようなケースは少なくないかと.で,ウレタンベースは大体欠品だったりしますのでその掛けている部分のみウレタン素材で埋めて補修したりします.

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私の場合,形状に合わせて小分けにしたウレタンスポンジをシート生地の下に張り詰めることが多いのですが,このウレタンの弾力性については少し硬めをイメージして選定したほうが良いようです.結構人間の体重というと,自分でそれを支える弾力というのがイメージ付きにくいと思いますので,私もあとで少し後悔することがあったりします.実際そんなシートに座っていると,あんこ抜きした状態に近いので,ちょっとしたギャップを高速で抜ける時とかに,腰に負担が来るぐらいの衝撃が加わってきますし,腰の位置が定まらず,ライディングフォームがおかしくなったりします.まあなんどかタッカーを打って座ってみてウレタンフォームの量や硬さを調整する場合はよいのですが,私のように一回張ってしまったら終わりにしたい人は,”気持ち硬め”を念頭に選ぶ方が良いと思います.

また,ウレタンフォームを成形してシート生地を張った後の凹凸をマシにする場合は,ウレタンフォームを荒目のヤスリで削るとよいです.その作業を効率よくやるためにもやはり素材は硬めが良いようです.

<シート生地を張る>

ここはかなりシート生地の伸縮性によって変わってきますが,私の場合大体下記のような手順でやります.

(1) シート生地は余分な部分を含め,十分に面積のある状態で作業開始する
(2) 仮装着し,シート全体が覆える形に少し余裕をもって前端と後端をタッカーで固定する
(3) 極率の高い部分(大体前半分)からシート生地を引っ張りながら留めていく
(4) 角部はしわが入りやすいので,均等にひっぱり調整しながら留めていく
(5) しわが出たところなどはしわを消す方向に引っ張って一旦針を抜いてから再び留める

といった感じで,まあ完成度は根気勝負の感じです.こだわりすぎて指紋がなくなるほど引っ張って頑張ることも以前はありましたが,引っ張りすぎて記事が破れやすくなるのも嫌なので,結局最後は妥協で仕上がりには目をつぶってしまったりします.ここらへんは慣れてくると時間をかけずにうまくできるようになりますが,伸縮性のあまりない生地で曲率の強めなシート形状のものをやるとやはり少ししわが見えてしまったりします.まだまだ精進が必要ですね.

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上記はおまけでご紹介しましたが,バイクシート張替の技術を習得しているだけで家具の補修ができるようになったりしますし,様々なDIYにもそのスキルが活かせたりしますので,もしタッカーをお持ちの方は針が刺さるか確認したうえでチャレンジしてみるのもよろしいかと思う次第なのであります. 

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